1位(408本中でクランプリ❗️)『どうすればよかったか?』藤野知明監督/102分
1983年、当時24歳の姉に統合失調症の症状が現れた。両親はそれを認めず、精神科を受診させることなく、姉は家に引き籠ってしまう。
そのうちに両親は玄関に南京錠をかけて、姉の外出を阻止するようになった。両親の態度を疑問に思った弟(監督)は、その責任を問うためにキャメラを回し始め、20年以上にわたる4人家族の葛藤を克明に映像に残していく。
これは去年の山形ドキュメンタリー映画祭で最も忘れ難い作品。上映が終わると大きな拍手が起こった。だがミッキーは拍手も出来なかったし、登壇された監督さんのお顔すらまともに見ることが出来なかった。
驚きとよくこの家族に20年もの間、カメラを向けて来たなという軌跡に打ちのめされていたからだ。
皆、エリートの家族でお金には不自由ではない。お姉さんは医学部で解剖の授業がきっかけとなってしまうのだが、外聞を気にする母親、自分の意見を強調しない父親……の中で監督さんは逃げるように遠地の大学に入り、家を出る。
監督自身、逃げ出した悔いを背負って生きてこられ、また自分も発病するにではないかという恐怖の中で、カメラを回し続けたドキュメンタリーだ。
★2024年グランプリ❗️
2位『うんこと死体の復権』関野吉晴監督
アフリカで誕生した人類が、南米の最南端まで拡散した5万キロを、動力を使わずに逆ルートで旅する「グレートジャーニー」を約10年ほどかけて踏破したことで注目を集めた探検家・関野吉晴。
彼はアマゾンの奥地で自然と共に生きる狩猟採集民族マチゲンガ族と半世紀以上にわたって交流(暮らしていた時もある)した関野は、現代人が自然とどのように共存していくべきかを、常に考えていた。
そして2015年、どの星よりも循環に優れた地球で人類が生き続けるためにどうしたらいいかを考える「地球永住計画」というプロジェクトをスタートさせる。
そのプロジェクトを通して関野は、野外排泄にこだわり続け、自ら「糞土師」(ふんどし)と名乗る写真家の伊沢正名、排泄物から生き物と自然のリンクを考察する生態学者の高槻成紀、そして死体を食べる生き物たちを観察する絵本作家の舘野鴻と知り合う。
彼らとの活動を通して、現代社会において不潔なものとして扱わる生き物の排泄物や死体を見つめる関野は、無数の生き物たちが命をつなぎ、循環の輪をつないでいることを知る。
関野氏は自宅近くの山林を買って、自前の野糞場を作っている。林には尻を拭く柔らかい葉っぱが数種類あった。そんなこんなを「クソ真面目」に丁寧に教えてくれた。
野糞がすんだ後は棒を刺して日付を書いて(山林のそこら中に棒が立っていた)時々見回ってどんな様子になっているか調べている。
関野氏は「探検家のままならよかったのに……」と言って離れて行った奥様のことを『残念だったが、どっちを取るとなって、やっぱりうんこだった」と笑っていた。
★監督賞
3位
『大きな家』竹林亮
現在、日本には親と離れて児童養護施設で暮らす子どもたちが約4万2000人いることをご存知だろうか。事情は、死別・病気・唐待・経済的事情などさまざま。ここで暮らす子どもたちの日常生活に焦点をあてたドキュメンタリー。
監督は、中学2年生1クラス全員に密着した青春映画『14歳の栞』の竹林亮。企画・プロデュースは、『シン・ウルトラマン』『零落』の主演俳優・齊藤工。彼が約4年前に訪れた東京のとある児童養護施設が舞台。
監督と齋藤の2人は施設の訪問を重ね、家族ではないつながりの中で生活しながら、自分の運命と向き合い、未来に目を向けて成長していく姿をカメラが追っている。
小学校低学年から19歳までの生活を映し、年齢を考慮しながらインタビューしている。「ここはあなたにとってどんなところ?」「将来の希望は?」から「ここにくる前のこと、教えて」まで、じっくりと話を聞いている。子どもたちは口ごもりながらも「本音」で答えている。
子どもたちの生活のあらゆる面で手助けをする職員の細かい配慮も見逃せない。女の子たちの髪の毛がみんな長く「短い方が手間がかからないのに」と思ったが、一人ひとりの髪を束ねたり、三つ編みにしたりして「触れ合って」いるシーンは温かみに溢れていた。
本作は出演者のプライバシー保護のため、劇場上映のみの公開。
★作品賞
🎬『94歳のゲイ』吉川元基監督
長谷忠さん、94歳。押しぐるまで行動する忠さんの動きを見ていると確かに90代のお年寄りだ。だが目の光は教養を伺わせて、言葉は洞察力と知性に富んだものだった。
ご自分の好みも男性写真を切り抜いて「もし、この人と暮らしたら……」など空想していたと語っていた。一度もセックスも恋愛経験がないと聞いた時、どんな人生を歩んできたかと思うと、やるせない気持ちになった。
大阪西成の地区がこんなに穏やかな顔を持っている男の方がいらっしゃるとは思わなかった。
🎬『劇場版 再会長江』竹内亮監督/中国
中国大陸を横断するアジア最大の大河・長江。竹内監督は10年前にNHKの番組で長江を撮影した際に、チベット高原にある「長江源流の最初の一滴」を撮影できなかったことを後悔していた。
その後、日本から中国南京市に移住した竹内監督は、2021年から2年をかけて長江6300キロをたどる旅に出る。その旅の途中で10年前に撮影した友人たちと再会しながら、中国の10年の変化を見つめ、長江「最初の一滴」の源流を目指す。
このところ、TBSドキュメンタリーもあってかなりドキュメンタリーを見ている。そんな中で観たこの長江流域を旅する111分は「旅心を騒つかせたり、目を見張る風景に感動したり」の連続だった。
監督さんご自身の経験話の合間に、道案内ナレーションの女声がいいタイミングで入っていたので、迷子に?ならずに長江を旅することができた。
★監督さんや10年ぶりに会った方々の感動が直に伝わってきて、思わず一緒に泣いてしまった。
🎬『映画の朝ごはん』志子田勇監督、企画、撮影、編集
映画やドラマの撮影現場で長年愛されてきた東京都練馬区のお弁当屋さん「ポパイ」に焦点をあてたドキュメンタリー。
早速、ネットで調べて見た。
いっぱい出てきた。名古屋では見たことがないお弁当屋さんだ。このシンプルなおにぎり弁当がなぜ人気なのかを、多くの支持者の話や、おにぎり弁当の作っている現場、ポパイが撮影現場のお弁当として有名になった経緯などが語られている特異なドキュメンタリーだった。
今、大活躍している黒沢清、樋口真嗣、瀬々敬久、山下敦弘、沖田修一監督さんらが、ポパイについての思い出を語り、時代と共に変わっていく映画ロケ現場の姿や、突然のコロナ禍による撮影スタッフたちの「食べること」へのこだわりなどを語ってくれた。
ナレーションは小泉今日子さん
🎬『カラフルな魔女 角野栄子の物語が生まれる暮らし』宮川麻里奈監督
「魔女の宅急便」の作者として知られ、88歳の児童文学作家として精力的に執筆に励む角野栄子。その個性的な想像力で260冊を超える作品を世に送り出し、近年では、彼女のライフスタイルや人生観にも注目が集まっている。
「自分にとって気持ちがいいもの」を最優先に毎日を心地よく暮らす。そんな彼女を4年間にわたって撮影したドキュメンタリー。
この方、お若い!カラフルさは好きじゃないし、じゃらじゃらのアクセサリーも好みじゃないが この方にはピッタリ。お若い時は地味目だったのにどこで変換したのだろう。
お若い!と感じたのはバターライス。ミッキーは食べる気もしないが胃も丈夫なのだろう。
今は有名無名問わず80代90代で自分なりのポリシーを持って暮らしていらっしゃる方は珍しくない時代だが、こういうドキュメンタリーを見ると、見習いたいと思う部分もあって観てよかったと思った。
ナレーションはあまり印象になく、後から宮崎あおいと気づいた。
★女性監督賞
🎬『COUNT ME IN 魂のリズム』マーク・ロー監督、製作、脚本/イギリス
レッド・ホット・チリ・ペッパーズのチャド・スミス、クイーンのロジャー・テイラー、アイアン・メイデンのニコ・マクブレイン、ポリスのスチュワート・コープランドといった大物や、ロイヤル・ブラッドのベン・サッチャー、ザ・ダークネスのエミリー・ドーラン・デイビスとそうそうたる顔ぶれのドラマーたちが、ドラムの歴史や自分のドラムとの関わり、演奏方法を生き生きと語っている。
ロック界を代表するドラマーたち(にスポットをあてたドキュメンタリー。
ドラムはバンドの中でも一番の要ということは知っているが、ドラム演奏がこんなに個性的なものとは知らなかった。
ビートルズのリンゴスターが他の三人より一段高い場所で楽しそうにドラムを叩いているシーン、有名ドラマーの子ども時代に鍋やフライパンを並べて叩いているシーン、お誕生日にドラムを送られて気が狂いそうに大喜びする場面など、ドラムのことを知らない方も充分楽しめるドキュメンタリー。
🎬『ビヨンド・ユートピア 脱北』マドレーヌ・ギャビン監督、編集/アメリカ
これまでに1000人以上の脱北者を支援してきた韓国のキム・ソンウン牧師は、幼児2人と老婆を含む5人家族の脱北を手伝うことにした。
キム牧師の指揮下で各地に身を潜める50人以上のブローカーが連携し、中国、ベトナム、ラオス、タイを経由して亡命先の韓国を目指す。移動距離は1万2000キロ。決死の脱出が展開される。
撮影は制作陣のほか地下ネットワークの人々によって映され、世界に北朝鮮の実態と祖国への思いを伝え続ける脱北者の人権活動家イ・ヒョンソをはじめ、数多くの脱北者やその支援者たちも登場。
脱北のドキュメンタリーもドラマも見ているので迷ったが評価がいいので観た。ほとんどが実写で見つかれは「死」も覚悟の上だ。
ここまで人のために命懸けでできるのは宗教(キリスト教)の信仰の深さか……。
監督は2023年サンダンス映画祭にてシークレット作品として上映され、USドキュメンタリー部門の観客賞を受賞。
🎬『おらが村のツチノコ騒動記』今井友樹監督、編集、ナレーション
長さは短いがビール瓶を飲み込んだような太い蛇のような姿をしていたと言われているツチノコ。
様々な目撃情報があるものの、いまだ発見も捕獲もされていない謎の生物。
今井監督の故郷・岐阜県東白川村は、1988年(昭和63年)にツチノコ目撃談が村の広報誌に掲載されたことがきっかけになって、ツチノコの情報や目撃者が相次ぎ、やがて村をあげて捜索が行われるようになった。
毎年5月3日に開催されるツチノコの捜索イベントは30年以上続いている。地域おこしにもなっている。
ツチノコという名だけは効いていたミッキー。どんな形か、どこにいたかなどは全然知らなかった。このドキュメンタリーを見て北白川村以外にもツチノコは全国にあって愛知にもいたとわかった。
あんなにたくさんの方々が「見た」と言っているにで、日本のどこかに少しでも生息していて欲しいと思う。ツチノコがすめる自然を長い年月をかけて作ったいこうとする監督の熱い想いも伝わって来た。
最後に流れたクラリネットの音色が良かった。
2025年01月06日
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