1989年、台北郊外。レストランで働く父のタイライ(リウ・グァンティン(リウ・グァンティン)と暮らす11歳のリャオジエ〈バイ・ルンイン)は、いつか家を買い、亡き母の夢だった理髪店を開くことを願っていた。しかし、バブルによって不動産価格が上がって、夢は断たれてしまう。
そんなある日、リャオジエは「腹黒いキツネ(オールド・フォックス)」と呼ばれる地主のシャ(アキオ・チェン)と出会う。シャは優しく誠実な父親とは違い、生き抜くためには、他人を見捨てろとリャオジエに諭すように何回も言うが……、
台湾の名匠ホウ・シャオシェンのもと、台湾ニューシネマの系譜を継ぐ俊英シャオ・ヤーチュアン監督が、バブル期の台湾を舞台に正反対な2人の大人の間で揺れ動く少年の成長を描いたドラマ。
この一作品で、また台湾映画ファンが増えるだろうな。少しでも節約しようとガスの元火を消すとか水道の蛇口を少し開けてメーターが上がらないようにするとか、そんな親子の生活が切なすぎて涙。空虚な日々を送る美しい人妻ヤンジュンメイ役を門脇麦がやっている。
★黒いキツネさんのアキオ・チェンさんに助演男優賞、音楽賞(クリス・ホウ)
2位『お坊さまと鉄砲』パオ・チョニン・ドルジ監督、脚本/ブータン、フランス、アメリカ、台湾
2006年。長年にわたり国民に愛されてきた国王が退位して、民主化へと転換を図ることが決まったブータン。
選挙の実施を目指して模擬選挙が行われることになった。
山々に囲まれたウラの村でその報せを聞いた高僧は、なぜか次の満月までに「銃」を用意するようにと、若い僧に指示する。若い僧は銃を探しに山を下りる。
一方、同じころ、アメリカからアンティークの銃コレクターが「幻の銃」を探しにウラ村にやって来て……。
長編監督デビュー作『ブータン 山の教室』で注目を集めたパオ・チョニン・ドルジ監督。初めて選挙をすることになったブータンの小さな村で、変化についていけなくて戸惑う村人たちの姿を、ユーモアでまぶしているコメディ。
ブータンといえば、世界で1番幸せな国というひと昔?前の印象が強いが、今は96位ぐらいに落ち込んでいるらしい。そんな様子が描かれていて興味深い。
展開も意外なオチがあって、銃社会のアメリカに対しても皮肉を込められている。
★監督賞
3位『国境ナイトクルージング』アンソニー・チェン 監督、脚本/中国、インドネシア
友人の結婚式に出席するために、中国と北朝鮮の国境の町・延吉にやって来た青年ハオフォン(リウ・ハオラン)は、上海へ戻る翌朝のフライトまでの暇つぶしに観光ツアーに参加した。
その時にスマートフォンを紛失してしまう。観光ガイドの女性ナナ(チョウ・ドンユイ)は、お詫びとしてハオフォンを夜の延吉に連れ出し、ナナの男友達で子持ちのl料理人シャオ(チュー・チューシャオ)と3人で呑んで盛りあがった。
翌朝、寝過ごしたハオフォンは飛行機に乗れず、その日は3人でバイクに乗って国境クルージングに出かけることにした。
監督さんは『イロイロ ぬくもりの記憶」で第66回カンヌ国際映画祭カメラドールを受賞したシンガポール出身のアンソニー・チェン。人情味豊かな作風で、観終わってからも長い間幸せな気持ちにさせてくれる。
新作も「え、これで別れてしまうの?」と思ったが、後から「これでよかったんだ」としみじみ感じた。
★脚本賞
🎬『抓娃娃(じゅあわわ) 後継者養成計画』イエン・フェイ、ポン・ダーモー監督/中国
ジーイェの父親は大企業の社長で大金持ちだが、跡取り息子が裕福な環境で育つことに不安を感じ、物心つく前から一家でオンボロな部屋へ引っ越し。息子の大学入学まで貧乏家庭のふりをし続けようと、十数年にわたる「養成計画」を実行していた。
これ本当にあったお話。
面白く見たが「やりすぎ」にはついていけなかった。祖母を死なせてしまう(これも嘘で)まで、やることないのに……。
★エンタメ賞
🎬『白日青春 生きてこそ』ラウ・コックルイ監督、脚本/香港、シンガポール
パキスタンから香港に来た難民の両親のもとに生まれ、香港で育った少年ハッサン(サハル・ザマン)は、家族とともにカナダへ移住することを夢見ていた。ところがある日、父が交通事故で亡くなり、その夢は突然奪われてしまう。
ハッサンは母親の心配をよそに、難民の子どもらに盗みを働かせるギャング集団に加わる。しばらくしてハッサンは警察のギャング対策で追われる身となる。
一方、1970年代に本土から香港に泳いで密入境したタクシー運転手チャン・バクヤッ(アンソニー・ウォン)は、警察官として働く息子との関係がギクシャクしていた。バクヤッはハッサンの逃亡を手伝うことを決心。2人の間には徐々に絆が芽生え始めるが、ハッサンはバクヤッこそが父の命を奪った事故を引き起こした運転手と知る。
このところ、移民問題をテーマにした映画をよく観ている。今作の香港移民事情は思っていたより相談窓口もあって、ゆるい感じを受けたが、
事故や事件が起きると容赦がない。
そこで長年タクシー運転手をやってる男は、今では住民権もあって、息子は警官上司の娘と結婚。その嫁だって優しい。
そんな男が10歳のハッサンを見て自責の念だけではなく、今まで悔いてきた妻のことなかなか香港に呼べなかった息子の少年時代を思い返したのだろう。
話は変わるが、香港のタクシー運転手の権利金と家を買うお金が同等ぐらいですごく迷ってタクシー運転手の権利を買った という話があって、大変な苦労をして来たんだろうと理解した。
★主演男優賞 新人賞
🎬『市民捜査官ドッキ』パク・ヨンジュ監督、脚本/韓国
経営していたクリーニング店が火事になって、お金が必要なシングルマザーのドッキ(ラ・ミラン)に、銀行のソン代理から融資をする電話がかかってくる。融資に必要だという手数料を請求され、送金したドッキだったが、それはすべて振り込め詐欺だった。
全財産を失い絶望するドッキ。しかし、そんな彼女のもとに、再びソン代理から電話がかかってきて、今度はドッキに助けを求めて来た。
ソン代理から詐欺組織の情報提供を受けたドッキは、ソン代理を助けて奪われたお金も取り戻そうと、彼女の仲間たちとともに中国・青島へ向かうが……。
久しぶりに韓国映画らしい作品を見た。それも実際にあったことがベースになっていて、今時の話題「詐欺」関連。主役をやるラ・ミランさんの押しの一手で映画が進んでいくのだ。
★主演女優賞
🎬『花嫁はどこへ?』キラン・ラオ監督/インド
大安吉日のインド。育ちも性格も正反対の2人の女性プールとジャヤ(ニターンシー・ゴーエルとプラティバー・ランター)は、それぞれの花婿の家へ向かうために、同じ満員列車に乗り合わせる。
しかし2人とも赤いベールで顔が隠れていたために、いつの間にか入れ替わって、別の嫁ぎ先に連れて行かれてしまう。
当然、花嫁、花婿はびっくり仰天するが、周りの親戚も大慌て。
予期せぬ出来事だが、50年以上も前の熱海でも、宿で新婚初夜の入れ違いがあったと聞いたことがある。その頃は新幹線で熱海に新婚旅行が全盛。インドでは満員の汽車で花嫁姿で行くのかと思うとちょっとかわいそう。
でも、女は強い。弱そうに見える方も自分の意志を貫いていて、瞬間的に「この人は信頼できる」とピピっとわかるようだ。2人の嫁ぎ先の対応も身分差も違うが、少しの間でも一緒に過ごした経験は、きっと貴重なものになるように思う。
終わり方がとってもしなやかで人間味に溢れていた。
★作品賞
🎬『本日公休』フー・ティエンユー監督/台湾
アールイ(ルー・シャオフェン)は40年の間、常連客に支えられて理髪店を営んできた。それなりに問題はあるが、子どもらは独立して、彼女の日々は穏やかに過ぎていく。
そんなある日、遠くの町から通い続けていた男性客が病で来られなくなったことを知ったアールイは、店に「本日公休」の札を掲げ、彼の散髪をするために、古い愛車VOLVO 240GLに乗り込み駆けつけるが……。
この地味な台湾映画に心奪われた。
20年ぶりに復帰されたルー・シャオフェンのことは知らなかったが、ハサミやカミソリを持つ手は、熟練の理髪師のように感じた。
撮影場所は監督のお母さまが営業されていたお店。お店のガラスには「家庭理髪」と書いてあって「学生頭、山本頭、西装頭、平頭」と書いてあった。
★女性監督賞
🎬『ソウルの春』キム・ソンス監督、脚本/韓国
1979年10月26日、独裁者と言われた韓国の朴正煕大統領が側近に暗殺された。
民主化を期待する国民の声が高まる中、暗殺事件の合同捜査本部長に就任したチョン・ドゥグァン保安司令官(ファン・ジョンミン)は、新たな独裁者の座を狙い、陸軍内の秘密組織「ハナ会」の将校たちを率いて、同年12月12日にクーデターを決行。
一方、高潔で正義感の強い軍人として知られている首都警備司令官イ・テシン(チョン・ウソン)は、部下の中にハナ会のメンバーが潜む圧倒的不利な状況にの中で、軍人としての信念に基づいてチョン・ドゥグァンの暴走を阻止するために立ち上がる。
もう随分前に公開された『ユゴ 大統領有故』を思い出した。ハン・ソッキュ(ミッキーは大ファン)主演。その後の出来事が今作では克明に描かれている。
劇場は公開されて2週間だが、50人以上の入りだった。男の方が圧倒的に多かった。
ファン・ジョンミンとチョン・ウソンを並べて見ると、どうしいてもいい男に目がいってしまうが、反乱を起こすファン・ジョンミンの悪顔がなんとも憎々しくて、うまい役者さんと再認識した。
久しぶりに骨太の韓国映画をみせてもらった。
🎬『ボストン1947』カン・ジェギュ監督、脚本/韓国
1936年、ベルリンオリンピックのマラソンで日本は世界新記録を樹立。金メダルと銅メダルを獲得した。その記録を出した選手は、日本名の孫基禎と南昇竜として参加した韓国のソン・ギジョンとナム・スンニョンだった。
第二次世界大戦の終結とともに韓国は日本から解放されたが、メダルの記録は日本のままだ。
2人は「第2のソン・ギジョン」と期待される若手選手ソ・ユンボクを1947年のボストンマラソンに出場させるためチームを組み、祖国の記録を取り戻すべく多くの試練に挑んでいく。
監督は『シュリ』『ブラザーフッド』の名匠カン・ジェギュ。金メダル選手で韓国の伝説の人となったギジョンを『チェイサー』『ベルリンファイル』のハ・ジョンウ。銅メダル選手のスンニョンを『藁にもすがる獣たち』のペ・ソンウ。そしてソ・ユンボクにアイドル出身で演技のできる「演技ドル」として人気を集めているイム・シワン。
ともすると泣ける映画、感動を煽る史実の作品と思われがちだが、ソン・ギションの「最後まで走ることができるのは、怒りではなく謙虚さだ」という言葉と 、3人のキャスティングの妙が、過去の悲しみや苦しみを喜びに昇華させてくれた。
この時代、韓国の国歌が「蛍の光」とは知らなかった。