2日は娘と2人で岐阜ロイヤル劇場でフランキー堺主演『雲の上団五郎一座』を観てから、すぐお隣の映画館CINEXに行って沢田研二主演『土を喰らう十二ヵ月』を観た。雲の上〜は花菱アチャコさんの名演技、土を喰らう〜は四季折々の山里の風景と料理を堪能した。
去年から娘とは正月に岐阜ロイヤルに来るようになった。毎年の恒例になってほしいものだ。
アジア映画ベストテン(1位から3位あり、その他は順位なし)
1位
🎬『声もなく』ホン・ウィジョン監督、脚本/韓国/99分
口のきけない青年テイン(ユ・アイン)と片足を引きずる中年男のチャンボク(ユ・ジェミョン)は、表向きは鶏卵販売をしているが、裏の仕事は犯罪組織から死体処理などを請け負っていた。
そんなある日。2人は犯罪組織のヨンソク(イム・ガンソン)から、身代金目的で誘拐したが親が金を渋ったために11歳の少女チョヒ(ムン・スンア)を1日だけめんどうを見るように命じられて……。
死体処理が裏仕事だが処理だけではなく「殺してから処理」だからいったいどんだけお金をもらっているのか。相当もらっても割に合わない。若者は口がきけない、中年男は足が不自由なら韓国の田舎では生活するのが難しいのだろうか……。設定だけでも首をかしげたくなるが、作品としては見ごたえがあった。
一言も台詞がないユ・アインの惚けたような表情、誘拐されて親から見捨てられている少女とボロいテインの家にいる幼い妹の子役2人が健気に演じていた。
ユ・アインさんに主演男優賞
2位
🎬『アメリカから来た少女』ロアン・フォンイー監督、脚本/台湾/101分
SARSが流行っていた2003年。13歳の少女ファン(ケイトリン・ファン)、母親(カリーナ・ラム)、幼い妹の3人は、教育のために父親を台北に残して、ロサンゼルスで暮らしていたが、母親が肺癌になったことで父親の住む台北に戻ってきた。
しかしアメリカの自由な学校生活から、台北の名門校に馴染めず「アメリカン・ガール」とからかわれていた。台北のアパートは父親の所有だが古い上に狭く、早くアメリカに帰りたいと、ことあるごとに両親に訴えていた。
母親の病気のこと、妹がSARSの疑いを受けて大変な思いをしたことなど、いろいろ辛いことがあったが、ファンは学校の弁論大会で「家族」について発表することになったが……。
思うようにいかない事で悩んだり、ちょっと楽しいことがあったりという、ひと家族の生活を正直にしなやかに瑞々しく描かれていた。
監督賞 ケイトリン・ファンさんのみずみずしい演技に新人賞。
3位
🎬『奈落のマイホーム』キム・ジフン監督/韓国/114分
平凡な会社の課長ドンウォン(キム・ソンギュン)は10年以上の節約生活で、ソウルの一等地にマンションを購入した。新しい家具などが揃う中、幼い息子が面白そうにビー玉が床を転がって行くのを見て、驚くドンウォン。マンションを出た所には取り囲むように地面に小さな亀裂があって、マンション入り口の扉ガラスがちょっとした弾みで粉々に。
市に調査の依頼をするが住民全部の許可がいるという。早速全部に集まってもらうが、室内のドアが開きにくい、水道の出が安定しないなど苦情も出たが、なんともない部屋もあったり、資産価値が下がるからと心配したりで話はうやむやになってしまう。会合の次の日、会社の同僚を招いてパーティを開くが、酔っ払って皆泊まっていくことになって……。
ソウルの中心に突如として現れた巨大な穴「シンクホール」にマンションごと巻き込まれた人々を描いた韓国発のサバイバルスリラー。監督さんは『ザ・タワー 超高層ビル大火災」『第7鉱区』『光州5・18』のキム・ジフン監督。
面白い❗️ ちょっとしたことでも気になってしまうマンション購入だが、ドンウォンさん、工事中からしっかり下見をしていたのだろうか。ソウルの地価高騰はすごいから借金だけが残ったのか、それとも弁償金が出たのか気になるところ。
作品賞 隣人マンスを演じたチャ・スンウォンさんに助演男優賞
🎬『三姉妹』イ・スンウォン監督/韓国/115分
細々と生花店を営む長女ヒスク(キム・ソニョン)は別れた夫の借金を払いながら、いつも「ごめんなさい」「すみません」が口癖の気弱な性格で、癌を患っているが黙っている。
キリスト教の信仰に全て捧げている次女ミジョン(ムン・ソリ)は、教会系の学校で音楽指導者で教授の夫共々トップの地位にいて信頼と尊敬を集めている。
脚本家の三女ミオク(チャン・ユンジュ)は酒浸りで暴言が元で仲間内の厄介者。 そんな三姉妹が父親の誕生日に集うが……。
三姉妹の生い立ち、性格、生活がヒリヒリとした痛みと共に伝わってきた。三姉妹のそれぞれの家庭も苦あり難ありで、不幸せそうに見えても「理解者」が一人でもいると「幸せ」に転じ、反対にうらやましい生活の中で「裏切り」があうと「鬼の心」と変化する。
最後に三姉妹の生きづらさの元凶を責めて幕となるが、自分たち三人も子どもらにまいている「元凶の種」もあるのではないか?とふと思った。
🎬『雪道』イ・ナジョン監督/韓国/121分
太平洋戦争末期、朝鮮が日本の統治下にあった1944年。忠清南道の江景(カンギョン)村に、2人の少女がいた。共に15歳だったが、ひとりは貧しい家で母と弟と暮らすチョンブン(少女時代をキム・ヒャンギ、現在をキム・ヨンオク)、もうひとりは裕福な地主の家に生まれたヨンエ(キム・セロン)。2人は身分の違いもあって親しくはなかった。
そんなある日、ヨンエは女子勤労挺身隊に選ばれて、日本行って勉強も仕事もできると喜んでいた。そんなヨンエをうらやましく思ったチョンブンだった。だが、彼女は夜中に何者かによって家から連れ去られ、列車に乗せられて満洲に連れていかれたが、そこにはヨンエもいて……。
2015年にKBS韓国放送公社が製作した「光復70周年特集ドラマ」を再編集した劇場版。慰安婦を題材に、過酷な運命を耐え抜く2人の少女の人生を描いた作品。
日本人にとって重い作品だった。2人は敗戦直後に逃げ出して命からがら故郷(1ヶ月以上かかる距離)を目指すが「帰っても、軍事工場で働いていたと言おうね」と約束したり、ヨンエは自分の兄に憧れていたチョンブンに「兄と結婚してもいいよ」と言ったりして、極寒の山を歩き続けていた。
脚本賞
🎬『キングメーカー 大統領を作った男』ビョン・ソンヒョン監督、脚本/韓国/123分
1961年。韓国東北部の江原道で薬剤師をするソ・チャンデ(イ・ソンギュン)は、世の中を変えたいという強い思いから野党の新民党に所属するキム・ウンボム(ソル・ギョング)の選挙事務所を訪ねて、選挙に勝つための戦略を提案した。
その結果、ウンボムは補欠選挙で初当選を果たし、次の国会議員選挙では地元対立候補を破り、新進気鋭の議員として注目を集めるようになった。その後もチャンデは影の参謀として活躍するが、勝利のためには手段を選ばないチャンデに、理想家肌のウンボムは次第に自分との距離を感じ始めて……。
第15代韓国大統領・金大中(キム・デジュン)と彼の選挙参謀だった厳昌録(オム・チャンノク)の大統領選の裏を描いた。監督は『名もなき野良犬の輪舞』(これもソル・ギョング主演)のビョン・ソンヒョン。
終盤にいくほど緊張感が高まって前に乗り出して観てしまった。韓国スターの中心に位置するソル・ギョングを相手役に、あまりお顔の馴染みのないイ・ソンギュンだが、響きの良い声、演技力など申し分ない男優さん。
ソル・ギョングの役は金大中がモデルで、イ・ソンギュンの役は金大中氏を大統領にするためにはどんなことでもやる男。この映画でやられていることは真実としたら「よくぞ作った!」と思った。
🎬『プアン/友だちと呼ばせて』バズ・プーンピリヤ監督、脚本/タイ/128分
ニューヨークでバーを経営するタイ出身の青年ボス(トー・タナポップ)は、バンコクで暮らす友人ウード(アイス・ナッタラット)から数年ぶりに電話をもらった。聞くと、ウードは白血病で余命あとわずかで、ボスに最後の願いを聞いて欲しいからタイにきてくれないかと言う。急いでバンコクに着いたボスが頼まれたのは、ウードが元恋人たちを訪ねたいと言う。
旅が終わりに近づいた時、ウードはボスにある秘密を打ち明ける。その秘密とは……。
世界を股にかけたカンニング映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』のバズ・プーンピリア監督の新作。監督の才能に惚れ込んでウォン・カーワァイ監督が製作総指揮を引き受けた作品。
二人の青年は美男ではないが好感が持てた。二人の境遇の違い(ボスはホテル経営者の息子でバーもホテル内にあるし、豪華マンションに一人で住んでいる)、貧しいウードは「一度こういう豪華な暮らしを味わってみたい」と思って仲良くなったふしもあった。
そんな二人が元カノ三人を訪ねて、病気のことは言わずに別れる。その中の一人が『バッド・ジーニアス〜』の主演の女の子。一言で言えば、この三人を訪ねるのはオマケ?で、切ない物語が隠されている。
音楽賞
🎬『無聲The Silent Forest』コー・チェンニエン監督/台湾/104分コー・チェンニエン監督/台湾/104分
聴覚障害をもつ少年チャン(リウ・ツーチュアン)は普通学校からろう唖学校に転校。そこで出会った女生徒ベイベイ(チェン・イェンフェイ)に一目惚れ。少しずつ言葉を交わすようになった。
そんなある日、スクールバスの一番奥の席でベイベイが複数の男子生徒から性暴力を受けているところを目撃する。主犯格の少年ユングアン(キム・ヒョンビン)は、その性暴力が「ゲーム」だと冷めた表情で平然と言う。
チャンは信頼している新人のワン先生(リウ・グァンティン)に助けを求め、先生も校長(ヤン・グイメイ)に訴えるが……。
台湾のろう唖学校で実際に起こった性暴力事件を真正面から描き、話題となった社会派ドラマ。
この作品を観て、2015年に公開されたウクライナ映画『ザ・トライブ』を思い出した。特異映画で実際の聾唖の人が、全編手話のみで作られていて、昼は穏やかに見える学校が夜になると売春をする組織=族(トライブ)が描かれていた。
被害者の女生徒ベイベイは事件が明るみになる前に母親が他の学校に転校させようとするが、頑として拒否する。「ユングアンが卒業するまで我慢する、学校を出たら友だちもいなくなってしまう」と、そのまま学校に残る。観ていて暗澹たる気持ちになるが「居場所」「生きる場所」が限られている聾唖の人の立場が赤裸々に描かれていた。
コー・チェンニエン監督に女性監督賞
🎬『バーニング・ダウン 爆発都市』ハーマン・ヤウ監督/香港、中国/121分
爆弾処理班で数々の事件を解決してきたフォン(アンディ・ラウ)は、爆発に巻き込まれ左足を失ってしまう。義足とは思えないほど身体機能が回復したが、警察上層部は彼の現場復帰を認めず、仕事一筋で生きて来たフォンは自暴自棄になり、警察を辞めてしまう。
その後、しばらくしてフォンは、テロ組織「復生会」のホテル爆破事件の現場にいて、重体の状態で発見された。容疑者として病院で尋問を受けるが、爆発の影響により過去の記憶を失っていて……。
CG使いが巧みで激しい描写がずーっと続くから、アンディ・ラウが心配……と思ってみていたら、足切断!(ネタバレでごめんなさい) しかしアンディはリハビリを頑張って、装具をつけて復帰!
だが現場には戻れなくて辞職。だがそれからが一層激しくなるシーンの連続だった。
🎬『シスター 夏のわかれ道』イン・ルオシン監督/中国/127分
看護師として働きながら、医者になるために北京の大学院進学を目指すアン・ラン(チャン・ツィフォン)。ある日、疎遠だった両親が交通事故で亡くなり、会ったこともない6歳の弟ズーハン(ダレン・キム)が突如彼女の前に現れた。
望まれなかった女の子として早くから親元を離れたアン・ラン。待望の長男として愛情を受けて甘やかされて育ったズーハン。親戚から弟の養育を押し付けられたアン・ランは、仕方なく養子先が見つかるまで面倒を見ることにしたが……。
中国映画らしい作品。姉アン・ランの行動の先は読める。それにしても後継男子願望のためにアン・ランを身体障害者として届けるとは傷ついたはずだ。だから両親には頼らず音信もしなかったのだろう。
それなのに弟の面倒を見ろとは……。ここまではしっかり中国事情で来て、後半は弟の養子縁組先を探したり、考えが変わったり、愛情が湧いてきたり……とアン・ランの心の動きを追っている。
チャン・ツィフォンさんに主演女優賞 ダレン・キム少年に名子役賞
2023年01月03日
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