1位🎬『GUNDA/グンダ』ビクトル・コサコフスキー監督、脚本、編集/アメリカ、ノルウェー/作品賞、撮影賞
ノルウェーのとある農場で暮らす母ブタGUNDA。生まれたばかりの子ブタたちが必死に立ち上がり乳を求める。そこには一本脚で力強く地面を踏み締めるニワトリや大地を駆け抜けるウシの群れもいて……。
★これは試写室ではなく小さい画面のオンラインで見た。はじめこそ「こりゃ、眠たくなりそう…」と頭をかすめたが、それも3分も過ぎると前のめりの姿勢になった。グンダの鼻先でワラの中から生まれ落ちたばかりの赤ちゃん豚をどうにか自分の乳房まで持っていく。10匹ほど生まれたが動作の早いものからうろうろするものが乳房のまわりに集まってくるのを、ちょっともてあまし気味の表情をしたり、まだワラのどこかにいないかと鼻先で探してみたり、なかなかの母親ぶりだ。モノクロ、無音(自然音のみ)、ナレーションなしの作品だが、動物の世界の「喜怒哀楽」が静かに潜んでいた。この作品を製作者の1人として俳優のホワキン・フェニックスさんが名乗り出たのも頷ける無音ドキュメンタリー。
2位🎬『THE MOLE』マッツ・ブリュガー監督/デンマーク、ノルウェー、イギリス、スウェーデン/監督賞
デンマークの元料理人のウルリクは、北朝鮮の闇を暴きたいという強い好奇心を抱き、スペインに本部がある北朝鮮との文化交流団体KFAにスパイとして入り込む。そこで数年間かけてKFA会長の信頼を勝ち取り、中心メンバーになる。コペンハーゲン出身で麻薬密売人の相棒と共に、独裁国家・北朝鮮に潜入。信頼を得たKFA会長の橋渡しで、武器や麻薬を製造、供給する北朝鮮の国際犯罪組織に潜り込んでいった。
★デンマークの男性が北朝鮮の国際的な武器密輸の組織に潜り込み、隠しマイク、隠しカメラで、実態を暴き出したドキュメンタリー。「嘘でしょ?」「まさか!」の連続だった。北朝鮮に入り込んでものの見事にトップの方にまで会った実話『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」(2018)以上の緊張感でハラハラドキドキ。これ事実のことだが、ちょっと北朝鮮上層部の詰めが甘かったようだ。まあこれが事実なんだから、ヘマをした交渉の高官たちは、今ごろ生きていない……可能性もある。ブリュガー監督は2009年に『ザ・レッド・チャペル』という衝撃的な作品を撮り北朝鮮を怒らせて入国禁止になった。
3位🎬『83歳のやさしいスパイ』マイテ・アルベルディ監督、脚本/チリ、アメリカ、ドイツ、オランダ、スペイン/女性監督賞
とある探偵会社が「80〜90歳の男性で電子機器に強い人」と募集を出したところ、オレがぴったり!というご老人たちがたくさん集まった。決まったのは身なりがきちんとした紳士・セルシオが選ばれた。途端に生き甲斐をみつけたセルシオさん。老人ホームに入って依頼主の母親がどんな扱いを受けているか調べるスパイだった。
★これ、2年前の東京国際映画祭で『老人スパイ』という怖い題名で観た。そして去年のアカデミー賞のドキュメンタリー部門でノミネートされた作品。秘密でカメラを回していたわけではないので(目的は言わないが、撮影許可は取っていて)、舞台になったホームは一応気を使っていると思うので本当のところは分からない。もう数十年もするとネットを使い慣れた入居者たちは、毎日、ブログやツィッターで状況を発信するかもしれない。そうなったら病院としては、やりにくいだろうなあと思った。セルシオさんはけっこう女性に人気で、ご本人もこのお仕事に生きがいを感じるようになって生き生きして来るのがわかった。
🎬『ブックセラーズ』D.W.ヤング監督/アメリカ/99分
世界最大のニューヨークブックフェアの裏側からブックセラーたちを追ったドキュメンタリー。バイヤー、書店経営者、コレクターたちの個性的な佇まいと共に珍しい希少本の数々が映し出されていた。
★もうため息しかでなかった。いろんな本が紹介される中でも「本物のマンモスの毛がついている」本には驚いた。シドニー娘の住んでいる所から歩いて20分ぐらいのところに大きな大きな古本屋(小さな体育館の規模)があって、入り口に「どこに何がありますかなどとは聞かないでください」「必ずあったところに戻しておいてください」と立て札があって、3回ほど行ったが、もう「たから探し」のような古本屋だった。子ども絵本の横にポルノがあったりアジア系の映画雑誌があったり図鑑があったりで、ものすごいところだった。3年前に閉鎖されたがあの本たちはどこに行ってしまったのだろう……。
🎬 『東京自転車節』青柳拓監督/2021年話題賞(1)
新型コロナウイルスのため緊急事態宣言が発出された2020年の東京。山梨の実家で暮らしていたが失職したので、東京に出て自転車配達員として働くことになった青柳監督は、スマートフォンなどで自分の活動を記録していくセルフドキュメンタリー。
★街中でよく見るウーバーイーツだが、このドキュメンタリーを見るまで「自転車さえあれば誰でも簡単にアルバイト感覚でできる」と思っていたが、大違いだった。映画を見てから女性のウーバーイーツの方も数人みた。みんなご苦労していると思うと頭が下がる。監督さんもウーバーイーツをやりながら笑える失敗や笑えない失敗を繰り返してちょっと成長したようだ。監督さんの人柄か、アパートに泊めてくれたり、時々心配して様子を聞いてくれる友人がいた。何もないけど「友だち」はいた!ことで、幸せも感じさせてもらった。
🎬『東京グルド』日向史有監督/2021年話題賞(2)
故郷での迫害を逃れて、小学生の頃に家族で日本へやってきたトルコ国籍のクルド人のオザンとラマザン。難民申請を続けていて、入管の収容を一時解除される「仮放免許可書」を持っているが「不法滞在者」の身分。そんな不安定な身でありながら、2人の若者は夢を持っている。しかし、住民票がないために、自由に移動することも、働くこともできない。そんな時、東京入管で長期収容されていたラマザンの叔父メメットが極度の体調不良になるが、病院に搬送されたのは30時間後のことだった……。
名古屋入管に収容されていたスリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさんが去年の春に適切な医療を受けることなくお亡くなりになった事件があった。このドキュメンタリーでも同じことが起こっていた。我が国のやり方の裏をまざまざと見せてもらった。オザン青年は長身で美男子。テレビ番組の紹介者に選ばれたが「仕事をしていけない」という規則でお流れになっていた。彼は日本語の読み書き、グルド語、トルコ語が堪能なので、活躍できる日が近いことを心から祈っている。
🎬『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』アントワーヌ・ビトキーヌ監督/フランス
ある美術商がとある絵画競売会社のカタログから13万円で落札した1枚の絵。彼はロンドンのナショナル・ギャラリーに依頼して、専門家の鑑定を経てダ・ヴィンチの作品として展示される。その絵に、投資目的の大財閥、手数料を上乗せして儲けようとする仲介人、国際政治での暗躍が噂される某国の皇太子など、それぞれ思惑を抱えた人々が世界中から集まってくる。そしてついに510億円で競り落とされて……。
ミステリー&サスペンス映画のようなドキュメンタリー。真面目で温厚そうな絵画仲介者はまるで詐欺師、だけどこれは慣例の範囲と平然としている。世界的に超有名な鑑定家4人のうち「偽物」とはっきり言ったのは1人だけ。ダ・ヴィンチが描いたのとダ・ヴィンチ工房が描いたのとは雲泥の差らしい。芸術は崇高だが周りで儲けようとする人たちの様子がこと細かく描かれていて、もう一度観たいほど。全然絵画に興味のない方も楽しめるドキュメンタリー。ダ・ヴィンチの最後の傑作とされる絵画「サルバトール・ムンディ」その絵は通称、男性版モナリザと呼ばれている。
🎬『芸術家・今井次郎』青野真悟、大久保英樹監督、撮影、編集/造形賞
作曲家、ミュージシャン、造形作家、パフォーマーで多彩に活動し、2021年には美術作品集が出版されるなど再発見されている今井次郎さん。2012年に悪性リンパ腫で他界した彼は、死に先立つ半年間の入院生活中、病院食を使って表現したユーモアあふれる「ミールアート」をはじめとする多くの作品をSNSで発信し続けたていた。
★芸術家と題に記してあるがご自身ではそうは思ってないのではないかな。上手く表現できないが、地球外からヒョイ!とばかりにこちらへ遊びにきた「宇宙人」のような、誰にも真似できない個性(特性かな)が、息づいている感じがした。ちょっと半歩ほど外したような魅力的な才能を持っていて、その気になりさえすれば「時の人」となってもてはやされる人生もあったはずだ。だが、今井次郎さんは有名にもお金持ちにもならなかったし、なろうともしなかった。しかし、その他の幸せの「全部」を手に入れた方だ。最後に病院食でいろんな「人がた」の造形を皿にのせて見せてくれた。前に本で見ていたが改めて病院の中でこんな「遊び」をなさっていたかと思うと、なぜだか涙が出た。60の年齢でおなくなりになったが、今頃、きっと「宇宙(そら)」で雲や星や陽の光を集めて造形して遊んでいるのではないか……そう思わせる不思議な力のある今井次郎さんのドキュメンタリーだった。
🎬『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔』アシフ・カパディア監督/イギリス/編集賞
2年前に60歳でお亡くなりになったアルゼンチンの伝説的サッカー選手ディエゴ・マラドーナのドキュメンタリー。
★監督さんは『AMY エイミー』で第88回アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞したイギリスのアシフ・カパディア。マラドーナさんご本人がナレーションをつとめている部分もある。スーパースターのマラドーナの栄光と影の部分(マフィアとの交際、愛人スキャンダル、コカイン等々)のトラブルメーカーとしてのマラドーナを追っている。編集が良くてあっという間の130分だった。
🎬『イルミナティ 世界を操る闇の秘密結社』ジョニー・ロイヤル監督、原案/アメリカ
チラシを見るとホラーみたいで楽しみにしていたが真面目なドキュメンタリーだった。初めて知ることばかりで、後からネット検索したら「映画」はまともだったが、ネットでは「マユツバ」が多く、どこまで信じて良いのかわからなかった。
★今でも隠れイルミナティが世界中にいるとか、誰それが会員だとかというネット情報だが
歴史の史実としてこのドキュメンタリーを見て本当によかった。
2022年01月05日
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