
🎬『ルッツ』アレックス・カミーレ監督/マルタ/94分/日本初上映
漁師のジェスマーク(ジェスマーク・シクルーナ)は、祖父の代から受け継いだルッツに穴が空いていることに気づく。漁業で生活するには先が見えない状態の中で、修理にかかる代金や修理中の無収入を思うと気が重くなるジェスマークだった。
妻との間に生まれたばかりの男の子は、体重が増えないから発達障害かもしれないと高価な粉ミルクを飲むように医師に言われる。
妻は裕福な実家をあてにせざる得ない生活状況に赤子を連れて実家に一時的に帰ってしまった。残されたジェスマークは……。
ジェスマークの心優しさが漁のやり方や、子どもを抱く手つきなどから伝わってきた。美しい妻も実家に帰ってしまうが愛が薄れたのではないこともわかった。仕事と家庭の両立が難しいのは、ここマルタだけに限らない。世界のどこでも起こりうる若い夫婦の物語だ。
★題名のルッツは木製の漁師が魚を取るための小型船で、4種類ほどの色を施されて帆先から見ると人の顔のように見える。

★ 主演のジェスマーク・シクルーナはマルタの実際の漁師で複雑な心情の揺らぎを、初めてとは思えない見事な演技を見せてくれた。2021年のサンダンス映画祭ワールドシネマ・ドラマティック部門で俳優賞を受賞したのも頷ける。
🎬『国境を越えてキスをして!』シレル・ペルグ監督/ドイツ/105分/日本初上映
恋多きイスラエル人女性シーラ(モラン・ローゼンブラット)は、理想の同性の恋人のドイツ人のマリア(ルイーゼ・ボルフラム)と出会い、マリアがテルアビブに越してくることになった。
シーラの両親(父親はジョン・キャロル・リンチ)や弟はマリア歓迎するが、過去の戦争を許さない祖母のベルタは、マリアに厳しく接する。

恋多きシーラには次々に濃厚挨拶する元カノたちがいてマリアをイライラさせたり、シーラの弟の遠慮ない質問が飛び出したりで、コメディ調でスピード感もあるが、おっとどっこい、ユダヤ人とドイツ人の「壁」は高くて厚い。
そこがこの作品のキモで、世代によって「壁」の強弱が描かれていた。
★ベネズエラ生まれでイスラエル育ちの女性監督シレル・ぺレグは本作が長編デビュー。