
1985年、大学教授の老女ゾフィア(マリア・コシチャウコフスカ)はスポーツ好きで歳よりは随分若く感じさせる知性的な女性。隣人の切手コレクターのチェスワフ・ヤニッキと親しくしている。
そんなある日、勤め先の大学にニューヨークから来客があった。客は大学教員のエルジュビェタ(テレサ・マルチェフスカ)で、ゾフィアの著者を何冊も英訳してくれた方。ゾフィアはアメリカに行った時に会っている。
ゾフィアの授業を見学したいと希望したので学生に紹介して、今日の授業のテーマ「倫理的問題」を話し合う時、エルジュビェタは自分の体験を話し出す。
ユダヤ人であるエルジュビェタが6歳の時、ある家族にかくまってもらう手筈だったが、家族の中の一人の女性が拒否したので追い出されてしまったこと。その後、運よく仕立屋に匿われて無事に生きながらえたと話しした。
話しを聞いていたゾフィアはその反対者は自分であると知り驚く。
二人きりになった時、私がアメリカに行った時にどうして黙っていたのかと聞いている。エルジュビェタは「ポーランドでお話したかった」とこたえていた。二人とも穏やかに話し、食事をしたり自宅に泊まらせたりしていろいろな話をする。
最後に自分をかくまってくれた仕立屋にその時の礼を言いたいので出向くが、仕立屋の男は「戦争時の話はしたくない」と言うばかりで扉を閉められてしまう。
怨みを抱く相手、ありがとうと感謝する相手の意外な反応に「戦後のポーランド」の40年後の姿があらわになっていた。
🎬「デカローグ 9.ある孤独に関する物語」
40歳の外科医ロメク(ピョートル・マハリツァ)は不治の性的不能と診断された。同僚の医師は、魅力的な若妻ハンカ(エヴァ・ブウァシュチェク)とは別れた方がいいとさえ言った。
夫婦は話し合いの結果、セックスより大切なものがあるはず、だから別れるなどは考えないという結論になったが……。
魅力的な妻は病気診断のつく前から若い男と浮気していた。別れ話にも耳を貸さない若者に嫌気がさしてくる妻。影から様子を伺って疑心暗鬼になる夫はいたたまれなくなって……。
秘密と誤解が孤独を深めていく様子に夫婦関係の脆さと強靭さの両極端を見せてもらった。
🎬「デカローグ 10.ある希望に関する物語」
人気のパンクバンドのボーカル・アルトゥル(ズビグニェフ・ザマホフスキ)は兄のイェジー(イェジー・シュトゥル)から疎遠になっていた父親(チェスワフ・ヤニッキ)が亡くなったと告げられた。
父親の住んでいた集合住宅に行くと鍵が何重にも掛けられてやっとのことで室内に入ると、膨大な切手コレクションがあって驚く。
同じ集合住民の男が来て、お父さんにはお金を貸していたと借用書を見せてくれた。じゃあ切手を売って借金を払おうと地域の切手交換会に出かけると、会長が出てきて「お父様のお部屋に行って説明させてほしい」と下にも置かない丁寧ぶり。
父親の部屋の切手を一枚、一枚みて「これ一枚でベンツが買える」「これはアパートが買える」などと聞かされて……。
10まで3日かけて今池シネマテークに通って見尽くしたが、10のこれが一番好きだ。後の9作品は話が哲学、宗教、思想が加味されていてちょっと近寄りがたい感じがしたが、この10は普通の人間「兄弟」が主役。
自分たちの父親が家庭を省みず全財産、人生を捧げて集めた切手だ。その切手を巡っていろいろなことが起きたり、お互いに疑心暗鬼になるなど、これは独立して一本の映画になってもおかしくない力作だった。