兄(趙方豪)に思いを寄せている実の妹(由良宣子)は、兄の恋人になりたいと願っていた。
そんなある日、兄がオートバイ事故で記憶喪失になる。妹は自分は恋人だと嘘を言って入院先の病院から連れ出して、取り壊しが近いアパートの一室で暮らし始めて……。

大好きな池脇千鶴の主演映画『ストロベリーショートケイクス』の矢崎仁司監督が1992年に製作した作品。ベルギー王室主催ルイス・ブニュエル「黄金時代」賞を受賞した作品。
いつもアイスボックスを抱えて歩く少女の行動に釘付けになった。少女の動き一つ一つは無防備のようだが随所に計算され尽くされた演出の的確さに驚いた。兄の純粋さは妹にとって愛しているからこそ、とても怖い。兄は恋人(妹)を不思議な存在と見ているが次第に生きる喜びとなって行く。
生真面目な兄は解体工事現場でコツコツと働き始める。妹は売春をしているが惨めさなどは一切ない……。
今、現在の映画ではないことはわかる。あるのは黒電話とメモ書きの世界だ。その世界を通ってきたはずなのに、とうに忘れてしまった世界をじんわりと思い出させてくれた。