DVD『ヒトラー最後の代理人』エレズ・ペリー監督、脚本/イスラエル/84分(未体験ゾーンの映画たち2017上映作品)
ナチス・ドイツ敗戦後の1946年。アウシュビッツ強制収容所で最も長く所長を務めたルドルフ・ヘス(ロマナス・フアマン)は、ポーランドの刑務所で裁判にかけられるのを待っていた。
ヘスの取り調べを担当する判事アルバート(マチ・マルチェウスキ)はドイツ語ができることもあって、その任に抜擢された。
シアン化合物系の殺虫剤ツィクロンBによって101万人もの人間が虐殺されたことなど、収容所で行われていた恐ろしい行為の数々を明らかにしていく。

残虐な殺戮シーンはない。取り調べ中心の静かな作品だった。判事は取り調べ室に油絵を自前で持ち込んで壁に飾っていて、コンクリートで無機質な部屋を少しでも和らげようとしていた。
一方、ヘスは当時のことを訥々と話す。彼が所長になるずいぶん前に信望のある上官が、知人である捕虜の扱いに情実があったとして、即銃殺という場面を目のあたりにしたのが、自分を無表情で冷たい態度で命令を忠実に守ろうと思った。と語っていた。
実際のヘスの写真を見るとロマナス・フアマンと似ていた。
2014年にやはりDVDで見た『ヒトラーの審判 アイヒマン、最後の告白』(ロバート・ヤング監督/イギリス、ハンガリー/2007年)を思い出した。
アイヒマン(トーマス・クレッチマン)は、ナチス政権下で、数百万の人々を強制収容所に移送する指揮を担った。戦後は家族と共にアルゼンチンで逃亡生活を送っていたが、15年後の1960年にイスラエル諜報部よって、会社帰りにバスを降りたところを逮捕され、イスラエルに連行された。
アイヒマンの独房のすぐ前に取調用の机が置かれ、アヴナー・レス警部(トロイ・ギャリティ)は、イスラエル諜報部に出向き、アイヒマンの尋問書を作成していく。
この映画の主役はアイヒマンではない。尋問を任されたアブナー・レス警部が「命令に従っただけだ」と罪を認めないアイヒマンとのやり取りを中心に、アブナー・レス警部自身も上からの命令で動かされる重圧とそれに反発できない鬱屈した様子が赤裸々に描かれていた。
『ヒトラー最後の代理人』の判事アルバート自身も神経的にまいってしまい異常な行動をとる場面も出てきて、問い詰める方が「悪」のオーラの強さに負けそうになるという共通する部分があった。