信州上田市の古い町並みの場所に親から受け継いだ鉄工所を細々と続ける鈴木鉄男(高橋長英)は76 歳の現在まで結婚もせずに一人暮らし。つい最近まで父親の介護に追われていたがその父も100歳で亡くなった。
そんな彼の周りには、商店会長の加賀(金内喜久夫)、工場を営む渡辺(坂口芳貞)、弁当屋の坪内(原康義)といった幼馴染たちが日頃から親しく付き合ってくれている。
そんなある日、突然40 年間も行方知れずだった兄の金之助(柳澤愼一)が、ふらりと戻ってきた。80 歳になる金之助には、娘ほど歳の離れた吉田樹里(土屋貴子)というお連れまでいた。
金之助は父の介護ベッドが置いてある部屋を我が物にして、金之助と樹里と鉄男の奇妙な生活が始まった。
ちょい悪老人で飄々としていて世渡り上手の金之助を演じる柳澤愼一さん。東京のラピュタ阿佐ヶ谷で毎回この方のお声を聴いていたことに気がついた。迂闊だった。映画が始まる前に画面ではなくお声だけで「お耳拝借」と言って予告をなさっていた。誰とは知らず柔らかい優しそうなお声とだけと印象的だったが、この映画を観て、はたとこの方と結びついた。
今年、日本映画ベストテンには確実に入る佳作。是非ともご覧いただきたい。
⭐️空想
「おじいちゃんおばあちゃん国際映画祭」をするならば、『兄消える』がオープニングかクロージングに選ぶべき作品で、5月31日公開の『長いお別れ』、アメリカからは『運び屋』、イタリアからは『ナポリの隣人』、スペインからは『家へ帰ろう』、古い日本映画からは今井正監督の『喜劇 にっぽんのお婆あちゃん』を上映するといいと思う……(空想終わり)