母親に勧められて武田先生の生徒になるのは、二十歳の典子(黒木華)と同い年の従姉妹の美智子(多部未華子)。
2人とも茶道の知識はなく、座ることすら難しい課題だったが、語りかけるような武田先生の教えかたに次第に日常の生活の中で「気持ちが落ち着く場所」に変化していく。
静けさの中で聞きもらしてしまいそうな木々のざわめき、雨音の変化など、耳を傾けて「聴く」要素の多い作品のように思えた。
これが樹木希林さんの☆最期の映画かどうかわからないが「身体全体から力や欲望が何もかも抜けて、人間性だけが残った」えもいわれぬ演技を魅せてもらった。
☆希林さんの遺作映画は浅田美代子主演の「エリカ38」(来年公開予定)
🎬『運命は踊る』サミュエル・マオズ監督/イスラエル、ドイツ、スイス/113分/9月29日よりヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国順次ロードショー公開
イスラエルの大都市テルアビブの広くて高級なアパートに住むミハエル(リオール・アシュケナージ)とダフナ(サラ・アドラー)夫妻のところに、軍の役人が現れて息子ヨナタン(ヨナタン・シライ)の戦死を伝えに来た。あまりのショックで気を失う母、父は平静を装っているが、役人の対応の仕方に怒りを覚える。
ところが、その報せが誤りだったことが判明。母は安堵するが、父は怒りが爆発、息子をすぐ呼び戻すように強く要求する。
一方、ヨナタンは……。
激しさと退屈さが同居している作品だった。激しいはずの戦場がのんびりしていて退屈のあまりダンスをいていたり、家庭は日常の変化のない平和な場所が激しく揺れ動いている。
日本の戦争中にでも、紙切れ一枚が入った骨壷を持ってきただけで死んだと知らせを受ける家族はあった。そして死んだはずの兵士が戦後しばらくして故郷に帰って来たという話もある。
だから、この作品で描かれたことは、戦争には付き物でどこの国にも当てはまる。ところが、はてはまらないものもある。イスラエルの特異な軍の構造だ。それが作品のあちこちにあって片時も目がはなせなかった。
原題はFOXTROTで、前、前、右、で止まって、後ろ、後ろ、左、で止まる……、結局元に戻るという皮肉めいた原題だ。
画面の遠景、近景のバランスが良くてシュールさもあった。公開されたらもう一度観たい作品。