韓国出身の監督が国籍を捨ててドイツ国籍を取って、北朝鮮に入国。そこで見た一般的で普通の人々を取材するドキュメンタリー。
北朝鮮に行って映画を撮るというのは、命懸けで隠しカメラで実態を撮るか、北朝鮮許可のもとで監視付きでフィルム点検されて、与えられた場所で決まりきった受け答えの「代表者」を撮影するかのどちらかだ。
これは完全に後者のもので、北朝鮮の「現実」からは遠く離れたものだ。でもそれはそれで面白い部分があった。
農業地域で数台しかないトラクターの運転手にインタビューするのだが、その農業地域ではエリートという立場で、家にも案内してくれた。
その男が「こんなに便利に工夫して生活させてもらってる」とばかりに、メタンガスで調理をしていると話す。自分たちのクソを原料に足りなければ他から分けてもらって調理していると半分得意気に、半分「これはうちだけ特別だ」とこそばゆさも交えて語っているのだ。
工場で縫製をしている女性はいつも目的達成の優等生で8時から7時(そのうち2時間休憩だから、インド映画『人間機械』、中国『苦い銭』の 労働時間より待遇がいい)。でもベテランと新人の賃金差は大きくなく、1日の終わりに優秀者とおぼつかない者の名前発表があり「特別」感だけ言葉でしっかり与えている。
どこからどこまで真実か普通かと考えても、この国の普通もこっちの「今時、メタンガスか」というような尺度があてはまらず、反対にこちらがもどかしくなる。
☆このドキュメンタリーのどこにもヨボヨボと歩いている老人はいないし、身体の不自由な人は見かけなかった。これこそ後者の証ではないだろうか……。