パレスチナ自治区のガザ。クリスティン(ヴィクトリア・バリッカ)が経営する美容院は10人のお馴染みさんの女性客で賑わっていた。助手のウィダト(アイサ・アブドゥ・エルハディ)とクリスティンの幼い娘を入れたら13人。
お客の中には離婚調停中の主婦、ヒジャブを被った信心深い女性、結婚を控えた若い娘、その母親、嫁ぎ先の義母、義母の娘、出産間近の妊婦、各々が美容室で午後の時間を過ごしていた。
だが、一歩外に出ると通りの向こうは戦闘地域だ。こんなの毎日よ と軽く見ていたが、だんだん銃声が大きくなり、ついに電気が止まってしまい、美容室は戦火の中に取り残されて……。
パレスチナ自治区・ガザで生まれ育った双子の監督の作品。試写でいただいた資料では監督さん兄弟は見るからに「こわ〜〜い」方だ。お一人は俳優さんとして出ていて、美容室の助手のウィダトに求婚している髭もじゃの男だ。彼はどこかからトラを連れてきて威嚇するように美容室のガラス戸の向こうに陣取っているツワモノ。
今は男性の美容師さんが増えたりや完全予約だったりで噂の溜まり場というイメージはないが、ミッキーの若い頃(50年前 ! )は大人の女ならカット、パーマ、セットでほとんど美容院に行っていた時代だ。住んでいる田舎の美容院には行かないで名古屋の美容院に月3回は行っていた。別におしゃれ目的でなくて、そこに行ってするものという時代だった。
夕方行くと水商売の方で満員だから6時過ぎに入って、予約などない時代でずっといることが多かった。自然と人のうわさも激しく、この『ガザの美容室』まではいかないが、「絶対内緒だよ」から始まる噂話に先生の目を気にしながら、係りの美容師さんとおしゃべりしていたのを思い出す。
ガザ美容室には老若の女性が集まるがみんなちょっと濃いめのお美しい方ばかりだ。ほとんどの女は口が達者だが、見た目おとなしそうな人もなかなか手強い。
閉じ込められた12人(クリスティンの娘は父親が戦闘の激しくならない前に迎えに来た)は外に出られない状態でイライラするが、そんな時間の「非日常」を過ごすうちにいろんな考えを聞いたり、今までの自分の生活を改めて考えたりする。
「もし、女の私たちが政治をするなら、あなたは⚪️⚪️大臣、あなたは⚪️⚪️大臣、あなたは⚪️⚪️と⚪️⚪️大臣を兼任するのよ」など閉塞感のある一室で、ガラス戸の外をあざ笑うように語っている場面が秀逸だった。
彼女たちのひと言ひと言にこの国の状況が透けて見えていた。監督さんは見た目(失礼 ! )よりもうーんと女性にお優しいジェントルマンということがわかった。