新潟と東京を往復する深夜高速バスの運転手・高宮利一(原田泰造)は娘(葵わかな)と息子(七瀬公)がいて、それぞれ別に暮らしている。元妻・美雪とは16年前に離婚している。
今の利一にとって、東京で小料理屋を営む恋人・志穂(小西真奈美)と会うことがささやかな楽しみだった。
そんなある日、利一が乗務する深夜バスに離婚した元妻の美雪(山本未來)が疲れ切って乗り込んでくる。一方、利一の1人住んでいる新潟の家に東京で働いていた息子が仕事を辞め、家に戻ってきた。
第27回山本周五郎賞と第151回直木賞の候補になった伊吹有喜の小説の映画化。
ミッキーがいつも利用する高速バスの運転手さんが主役。彼は深夜バス専門だが、東京〜山形の深夜バス、大阪〜福岡の深夜バスに乗っているから、よく見た光景がたくさんあった。
バスの運転手さんといえば『パターソン』もどっちかというと無口だった。利一も子どもにうまく自分の気持ちが伝えられない。しかし、ある出来事ではっきりさせなくてはならない「自分に課せられた」現実にぶつかる。
深夜、東京から新潟を行き来しながらいろんなことが起こるが、運転している横顔は観ている者も安心してバスに乗っている気分にさせてくれた。
157分という長丁場だが、不器用で生真面目な中年男を描ききるには必要な時間だったと感じた。音楽が川井郁子さんと書いてあったがバイオリン奏者の方だろうか。音楽が印象的だった。
🎬『パンとバスの2度目のハツコイ』今泉力哉監督/111分
パン屋で働いている市井ふみ(深川麻衣)は、恋人からプロポーズされたが「私をずっと好きでいてもらえる自信もないし、自分も相手をずっと好きでいられる自信もない」という考えで断ってしまった。
その後、彼女は中学時代の初恋相手だった湯浅たもつ(山下健二郎)と偶然再会する。
たもつも路線バスの運転手。日頃は大人しい男だが思い込んだら命懸けの性格で、奥さんの浮気がもとで離婚したが忘れられないで悶々としている。
たもつとふみはそんな状態で会うが、2人とも中学生時代に初恋同士だった。再燃するまでがヤキモキさせてくれた。
ハッとさせる台詞があった。ふみには妹がいて二人でアパートを借りているが、二人とも美大を出ていて才能があったふみは絵をやめて会社勤め、妹はずっと描き続けている。
その妹が「おねぇちゃん、絵の完成はいつ決めるの ?」と聞くところだ。そうだ、絵の完成を決めるのは絵を描く本人だが、それを「決める」のは絵を描く始めの構想より難しいことではないかと思った。
ふみは「自分がこれでいいと思った時だけど、それが決まらなくてずんずん描き足していくうちに、終わりどころは、あそこだったと過ぎてから後悔する時もあった」と言っている。ふみらしい答え方だった。