監督の祖父が建てた家はレバノン内戦に被害も受けず、いまも両親が暮らしている。一人息子のムラードはゲイで名家は彼で終わってしまう。
両親は4年ほど前からゲイとわかっていたようだ。それを監督さんはカメラを向けて両親の気持ちをまるで「面白がるように」いろんな質問をしている。
例えば「知っていてどうして黙ってやりすごしていたのか」「僕で跡継ぎはなくなるがどう思っているのか」等々。
憮然とする気骨のある父親、息子より亭主の怒りに戸惑う母親。なんかすごいわがまま息子に感じる。
極めつけは3人の記念写真を撮るから部屋に来てと監督が言うので正装して部屋に入ると、「真っ裸」の監督がいて……、ミッキーならカメラを取っつかんで投げ捨て立ち去るが、両親は次の行動が起こせないくらい驚きの声をあげていた。親不孝にもほどがある。家族を巻き込んだ自虐ドキュメンタリー。
家を壊し建てかえることが決まった時「あの内戦でも無事だった家を人の手で壊すなど罰当たりなことだ」とポツリと言った父親の言葉が胸に響いた。
🎬『ドンキ・ホーテ』チコ・ペレイラ監督/スペイン、ドイツ、イギリス/2017年/86分
南スペインの村で暮らしているマヌエルじいさんは73歳。相棒のロバと二匹の犬がいつもマヌエルのそばにまとわりついている。
心臓疾患や関節炎で若い時のようなわけにはいかないが、いつか、ロバと犬を連れてスペインからアメリカへ、かつて「チェロキー・インディアンが通った3500キロメートルの涙の道」を踏破したいと願っていたが……。
マヌエルじいさん、ロバ、犬が自然の中を歩く姿は、誰もが年老いて暇になったら、あれもしたい、これもやってみたいという人たちの憧れみたいなドキュメンタリー。
監督さんはマヌエルじいさんの義理の甥っ子で小さい時には冒険旅行やいろんな遊びを教えてくれた人だったが叔母さんと離婚してから疎遠になったらしい。
そんなマヌエルに2012年のクリスマスに会いに行ったのがきっかけで、遠のいていた縁が復活。疎遠になっていた人と付き合いを復活することってそう簡単ではない。その中立ちをしたのが「カメラ」だ。
マヌエルじいさんは日本での上映時間に合わせて「どんな様子か教えてほしい」と待っているので、監督さんは会場の様子をスマホで撮っていた。