大都会テヘランの片隅でイランの作曲家の曲をバイオリンで巧みに演奏する若者・キアヌーシュ(キアヌーシュ・シャーナズィ)は、集まった投げ銭を実家に送金する優しい青年だ。彼より歳上の従兄弟と小さなアパートに暮らしている。
そんなある日、バイオリンの音色を聴いたビアニスト志望の美しい音大生サバ(サバ・ファダイ)から声をかけられた。音大併設の楽団に入らないかというものだった。彼女はためらうキアヌーシュを即座に指導教官のもとに案内して強引にバイオリンの腕前を聴かせることになった。
独特な運指と音色ですぐ入団を許可された。街角で弾いて儲けなくてはならない彼だったが、両立しようと意気込んでいたが、数字後、自分の不注意でバイオリンを盗まれてしまう。
クラシックとは違う奏法だが波のように細かい音の美しさにうっとりした。キアヌーシュは実際に路上のバイオリン弾きで、テヘランで監督さんに見出だされ映画に出ることになった青年。
彼を取り巻く人々が優しい。バイオリンを盗み、生活のために売ってしまった小太鼓打ちの少年でさえ、優しい気持ちが身体の中心にしかとあるのがわかり、被害を受けたキアヌーシュも「ゆるす」という広い心が、彼だけではなく登場人物すべてに宿っていた。
バイオリンの音と同く気持ちまで清らかになる作品だった。
🎬『はぐれ道』サンジェイ・クマール・ペルマル監督/マレーシア/76分/Brutal
1990年代の北マレーシア。かつて「大規模農園」で多くの南インド・タミル系の住民は繁栄から取り残されたように低賃金で働き、貧しい暮らしをしていた。
少年アポイ(ハラヴィン・ラージ)の父親もその一人で、一人息子をこんな生活から抜け出させようと勉強、躾など厳しくしていた。
だがそんな厳しい父親の目を盗んでは勉強している振りをしてテレビをみていて、父親が帰ってくるのを窓から見えるとテレビを消して一生懸命勉強する姿を見せるが、父親は黙ってテレビの側面を触って熱いのを確かめられて、ばれてしまう。
家事をする母親は美味しい料理を作ってくれてアポイを可愛がってくれる。もう一人、アポイを可愛がってくれる寡黙な叔父さんもすぐ近くにいる。貧しいが幸せなアポイだった。
1990年代の北マレーシアに生きるタミル系インド人たちの苦労や生活、厳しい背景を少年アポイの目を通して描かれている。
アポイの学校生活、大ファンのマイケル・ジャクソンの物真似、叔父さんが悪に道に行ったりと波乱含みだが、少年の健気な奮闘ぶりがエネルギッシュにスピード感を持って描かれていた。
マレーシアでは珍しい(ほとんど)タミル語の映画で、2016年マレーシア映画祭で最優秀作品賞を受賞した。