2時間近い映画なのに退屈しない作りの、和製ロードムービーという印象でした。タイトルの『アリーキャット』は「野良猫」という意味らしく、若手の個性派俳優である窪塚洋介とDragon Ashの降谷建志演じる主人公の二人の男性にも重ねられています。
映画の最初と最後に一匹の野良猫が隠し味で出てくるのも味噌で、猫好きにはたまらないでしょう(野良猫の割に、可愛がられているからなのか毛並みもよく、汚れが全くないのに違和感がありましたが・・・)。
政治家や経営コンサルタントという、いわゆる「勝ち組」で、上等な背広に身を包んではいるけれども、その実、中身はたんなる悪徳で変態の固まりでしかない男たちに対して、アルバイトの警備員や自動車の整備工、デリヘルという肉体労働に従事する主人公たちが挑むという内容が、さもありなんというリアリティを感じました。
最近、若手政治家のしょうもないスキャンダルが世を賑わしています。本当に政治家って暇だし、あの程度の中身でなれるような職業なんだなと呆れる毎日だった(なけなしの収入から天引きされる税金の一部が、この政治家たちの収入源になっているかと思うと怒り心頭!)ので、光のあまり当たらない場所ではあるけど一生懸命に生きている主人公たちの方が、人間的には何十倍も上等だと思います。
そう思わせるような俳優がたくさん出ているのも見所です。栄養不良だけれど底知れないパワーを秘めた野良猫にも似た窪塚洋介、愛すべき不良少年風の降谷建志、この二人を殴る、蹴るなどしながらも、男のほのかな愛情を漂わせる火野正平。
また、悪役たちの顔も怖くて、「憎らしい!」と心底思えます(笑)。変態政治家を演じる高川裕也、悪徳自称「経営コンサルタント」を演じる三浦誠己、政治家を守る冷血なSPを演じる森岡豊、その相棒を演じる馬場良馬など、かっこいい悪役たちも光っていました。
一方で、複雑な過去を持つシングルマザー演じる市川由衣、明るいデリヘル嬢を演じる柳英里沙は、強さよりも弱さ、頭脳よりもセックスが目立つ役どころで、女性イメージが限定され過ぎていて、同性としてはシンパシーを抱きにくかったというのが偽らざる本音です。男のほうが光る映画というか、男性観客のニーズを強く意識して作られた映画なのでしょう。
「辛気くさい話をすんなよ!映画なんだから、面白ければいいじゃん」と言われそうですが、男だけでなく女もお金を出して、時間を捻出して観に行くのが映画です。野良猫の生活のリアリティや女たちの多様性をちらっとでも伝えるような、細部にこだわった映画作りをして欲しいと常々思っています。こだわりのある映画であれば、映画館にわざわざ足を運んでまで支えていきたいですから。
☆コミケで何年ぶりかでお会いした猫好きの香さんに『アリーキャット』をオススメしましたら京都みなみ会館まで行って観てくださいました。ありがとうございました。最後の一文、共感しました ❗️また感想をお待ちしております。