ヨニ(若いヨニ:ムン・チェウォン/歳を重ねたヨニ:ソン・スク)は今日も「あの人」の好きな手料理を並べて帰りを待っている。
ある日、彼女の家を訪れたお役人から「一緒にあの人に逢いに行きましょう」と言われる。
あの人はどうして帰って来ないのか、どこに逢いに行くのかさっぱり理解出来ないヨニだったが、あの人の好きな料理を弁当に詰めて、お年寄りがたくさん乗ったバスに乗り込んだ。
『銀杏ベッド』『シュリ』の監督さん。主演がハン・ソッキュさんだったから二回〜三回は観てる。
そんな監督さんの短編映画。「歴史」と「記憶」を繋ぎあわせる中で、主人公のヨニの思い続ける純真な気持ちと焦りが伝わって来た。短い作品だが起承転結の見事さを感じさせてくれた。
🎬『春の夢』チャン・リュル監督/101分
働きもしないで街をうろつくチンピラのイクチュン(ヤン・イクチュン)。給料もろくにもらえないまま仕事をクビになった北朝鮮出身のジョンボム(パク・ジョンボム)。金持ちだが少し頭のゆるい大家の息子ジョンビン(ユン・ジョンビン)。
3人の男たちのマドンナは寝たきりの父親を看病しながら質素な居酒屋を営むイェリ(ハン・イェリ)。男たちは毎日のようにイェリの店に入り浸っていた。
そんなある日、見知らぬ男がその店に現れる。
チャン・リュルは『キムチを売る女』『豆満江』の監督さんだ。出演する男たちも監督さん。ヤン・イクチュン『息もできない』、パク・ジョンボム『ムサン日記〜白い犬』、ユン・ジョンビン『悪いやつら』と監督さんとして実力派揃いだ。
監督さんは中国の方。韓国の監督さんたちとはお友達。その監督さんたちを役者として自由闊達に作っている。それにしても、この男たちの「ちょっとうらぶれた」風貌、風采に味がありすぎ。
日頃、監督をしている方が俳優をすることによって、勉強になることもあったのではないかと思った。
🎬『バッカス・レディ』イ・ジェヨン監督/111分
高齢者向け売春婦ソヨン(ユン・ヨジョン)はテクニシャンで老人たちに人気があった。でも相手が老人だけに病気や家庭の事情でお客は減る一方だ。
そんなある日、トラブルに巻き込まれた混血の少年を助けるために家に連れて帰るが、彼女の住んでいるところは、貧しくて、事情を抱えた人々が暮らすシェアハウスだった。
この韓国映画の4つは、すべて静かな作品だが、訴える力、後に残る余韻がすごかった。最後に観たユン・ヨジョンさん主演の老売春婦は、その中でも必見作品と思う。
ソヨンさんはずっと苦労して身体を売ってきたが、それでも食うのが精一杯の人生だった。彼女には「いじわる」な感情は全くない。あるのは優しい心情だけ。それが災いしてか「年老いた自分の人生」の後始末をしてほしい男たちの頼みに手を貸す。
もちろん、殺人罪だ。最後には警察に捕まってしまうが、そこで一人つぶやくソヨンさんの言葉にどんな境遇でも受け入れる、どこに行っても幸せを見つける、という軽やかなしぶとさを感じた。