会社員風の若い男性と初老のご婦人が心配そうに「どこに住んでいるの?この近く?」「なんの用事でここに来たの?」と語りかけるのを耳にしたミッキーは4時から始まる試写まで数分あったので、立ち止まった。
話を聞き出そうとした会社員の方は「父親も徘徊するのでいつも札を首にかけている」ご婦人は「母親が施設にいて、今はその帰り」と教えてくれた。
ミッキーは持ち前の大きな声で「旦那さま、ここにはバスで来ましたか、地下鉄ですか」とゆっくり言うと、背広の内ポケットから名古屋市発行の無料パスを取り出してくれた。南区の方だった。
会社員の男性はすぐそこに書いてある電話番号に電話していたがミッキーは頭だけ下げて試写室に向かった。
ボケたご老人がそのままずっと行方不明になる事件があるが、道を歩いていて徘徊している方に遭遇したのは初めてだ。それに立ち止まったお二人の親切な方もそれぞれお年寄りを抱えていたのにも驚いた。やはり他人事ではなかったのだろう。
この3分ほどの遭遇で、今週、今池シネマテークで、ドイツの『わすれな草』がかかっているが、老人ご夫婦のドキュメンタリー。是非観に行きたいと思った。
🎬『歓びのトスカーナ』パオロ・ヴィルズィ監督/イタリア、フランス/116分
イタリア・トスカーナにある女性のみ収容されている精神病院が舞台。広大な敷地には農場もあって皆思い思いに暮らしている。その中で偉そうに命令ばかりしているベアトリーチェ(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)は「私は伯爵婦人、ここは私の一族が所有する地よ」といつもふんぞり返っている。そこに痛々しいほど痩せほそったドナテッラ(ミカエラ・ラマッツォッティ)が入所して来て同室になる。誰にも好かれないベアトリーチェだが、この若い女とは仲良くなって……。
ヴァレリア・ブルーニ・テデスキを確か最近の映画に出てきたはず、それが思い出せないで悶々としていたら、渋谷アップリンクで観た「旅するイタリア」で上映された日本未公開の最新作『ラテン・ラバー』だった。
イタリア映画界の伝説的大俳優サヴェリオ・クリスポの没後十年に、彼の生まれた地ブーリア州に彼の記念のレリーフの除幕式が行われることになった。その式典と十回忌のために、彼の生家に未亡人2人、腹違いの娘4人、彼女たちの連れ合いや子どもたちが集まった。
その4人の娘の1人なのに、2人の未亡人以外の女から生まれたので仲間外れにされていた役。テデスキさん、すっかり「仲間外れ+痛い」役が板に付いていた ❗️ 公開は7月なのでまた紹介したい。