上映する映画で既に観ている作品をご紹介したい。チケットもお安いので(500円以下)もう一度観たい作品がチョイスできるのも嬉しい。
ただ、東京も京都も、1分でも時間に遅れたら入れないという決まりがあるので上映時間にはお早めに。 http://eufilmdays.jp/ja/
◆『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ)』コーネル・ムンドルッツォ監督・脚本/ハンガリー、ドイツ、スウェーデン/119分
雑種犬に税を課すとある街。13歳のリリ(ジョーフィア・プショッタ)は母と二人で暮らしていたが、母の海外の仕事のために離婚している父親ダニエル(シャーンドル・ジョーテール)の家へ行くことに決まった。だが、リリが可愛がっている雑種犬ハーゲンも一緒とわかると、途端に父親は不機嫌になった。
父親のアパートでも、すぐ住民に通報され「飼うなら税金を払え」と警察がやってきた。父親は頑として税金は払わないと言い張り、警官を追っ払ってしまう。仕方なくリリは学校のオーケストラの練習場に連れていく。
少女と犬の狂詩曲という題だが、こんな激しい作品とは思ってもみなかった。雑種犬は犬のうちに入らない「差別」が、この国ではまかり通っている。少女とはなればなれになったハーゲンのやさぐれ人生が痛ましい。
この「犬」を「移民」とか「貧乏人」に変えて考えてみたらぴったり合う。犬の話にしているが、これは差別される人間そのものの作品と強く感じた。
☆101匹ワンちゃんどころではない犬の大団体。300匹以上はいるはず。この作品は少女の健気さと犬たちの団体行動にかかっている。動物コーディネーターのテルサ・アン・ミラーさんの力量が伺えた。
◆『リリーのすべて』トム・フーパー監督/イギリス、ドイツ、アメリカ/120分
1930年。デンマークに住む風景画家アイナー・ヴェイナー(エディ・レッドメイン)は、ある日、肖像画家である妻のゲルダ(アリシア・ヴィキャンデル)から、気軽に頼まれて「女性モデル」の代役をすることになった。
この時、アイナーは内面からあぶり出るように「女性」を感じ、心と身体との不一致に苦悩を深めていった。妻のゲルダもアイナーの変化に気付き、以前の夫でなくなっていくことに困惑する。しかし、リリー(アイナーが女性に目覚めたころからの名前)が本来の姿であると理解していく。
1930年代に世界で初めて性別適合手術を受けたデンマーク人「リリー・エルベ」の実話を描く夫婦愛のドラマ。変化していく夫に不変の愛で生涯を全うする妻を演じたアリシア・ヴィキャンデルは、第88回アカデミー賞・助演女優賞に輝いた。これは夫の人生を「助」するゲルダに最も相応しい賞だ。
アリシア・ヴィキャンデルさんは第88回アカデミー賞・視覚効果賞を受賞したアレックス・ガーランド監督の『エクス・マキナ』にも出ている。
◆『マリー・クロヤー 愛と芸術に生きて』ビレ・アウグスト監督/デンマーク、スウェーデン/102分
新進画家のマリーはスケーエン画家で高名なペーダー・セヴェリン・クロヤーと結婚。年齢差は15歳だった。かわいい女の子にも恵まれ、周りから羨望と尊敬を集めていたが、時がたつにつれて夫が精神を病んでいく。
彼女は過酷な生活の中で「自分らしく生きたい」と望み、新しい選択をするが…。
夫が精神を病んだ原因は、若くて美しい奥様と結婚したのもなきにしもあらずだ。映画は芸術より愛憎に重きをおいて描かれているが、当時に於いてはマリーの取った行動に批判が集中したことは当然だと感じた。
最初と最後に同じシーンが流れるが、それが暗示していることが印象的だった。