春から東京の大学生になる璃子(石井杏奈)は、父の肇(柳家喬太郎)と広島から深夜バスで上京し、下宿先を探すためにアパートの物件をあちこち見てまわる。二人は楽しい小旅行のような時を過ごしながらも「別れ」の瞬間を先延ばししたい感情も湧いてくる。
シングルファーザーを演じるのは落語家の柳家喬太郎さん。落語の世界はまるっきり知らないが穏やかなで生真面目な人柄が滲み出ている。父親は娘を東京に出すことの心配より「肩の荷がおりて、ホッとしている」と強がって大家に言う。
妻に先立たれてから再婚もせず一生懸命育てたが、これからは「自分の人生」と前向きな父親だ。つい数日前に買った高級カメラをパシャパシャと撮って父親の方が楽しんでいる。
そんな一日に、何と映画撮影現場に遭遇する。助監督に「家族で楽しくお話しているように」と頼まれるのだ。その三分ぐらいのシーンに映画業界が透けて見えた。
そして亡くなった母親の妹(朴璐美)と落ち合ってランチを食べたり、インド人迷子夫婦の道案内をしたり、思いがけない一日が続く。
監督前作品『あかぼし』とは正反対の映画だったが、そこに描かれている親子の切れない絆が吉野監督新作にもしっかりと描かれていた。