今ではDJやラップ、ブレイクダンス、いたるところにいたずら書き(失礼!)のようなグラフィティ・アートなどは目新しくはないが、今から35年前にどんな受け入れ方をされていたのか想像がつく。
喧しい、汚い、愚痴のような意味のないことを歌にしてウサ晴らししている、どんなところでも書いてしまうしょうがない奴、と言われていたに違いない。これは、その当時のありのままを切り取った作品。
時は1982年。ニューヨークのサウス・ブロンクス。グラフィティライターのレイモンド、通称ゾロ(リー・ジョージ・キュノネス)は、深夜に地下鉄の車庫に忍び込んで、スプレーで地下鉄の車両にグラフィティを描いている。
レイモンドのグラフィティはその色合いと奇抜なデザインで仲間たちの間でも評判を呼んでいたが、それ自体が「違法行為」なので正体を恋人のローズ(サンドラ・ビンク・ファーバラ)にも明かさないようにしていた。
ある日、これまでに何人ものアーティストを見出だしていたバージニア(パティ・アスター)から仕事が舞い込む。彼は仕事として描くことは初めてで、「自由」に描くことの意義を改めて考え、思い悩むのだった。
実話をもとにその当時の実在の人を登場させている。1983年には東京で上映されている。この時、30人以上のアーティストやクルーが来日したそうだ。
一晩で地下鉄車両を塗り替え、地下鉄が一部地上を通る原っぱで、自分の作品を明け方に見るくだりは「なんと、動く現代画廊か!」と思うほど迫力があった。デザインは奇抜だが、色合いには淡い部分も見受けられたのが意外だった。