
映画が終わったのにボーッとしていた。昭和の時代の記録映像を観ているような感覚になった。30年代初期の茨城県の土浦で生きる半農半漁の貧しい人々の生活の現実の姿を見せてもらった。
自然が手付かずのまま残っている素朴な美しさに郷愁を感じ、その中で毎日休むこともなく営々と働く村人。
それが当然である日常のさまを見ていて、「楽」を追い求めた先にある「今」と、映画が製作された当時の人々の感想は当然ながらおおいに違うものだと思った。
貧しい家では、身体の動かない老人も小学生の子まで、皆、同じ心配をしている。とどのつまりは「お金」で、望月優子扮する母親が起こした事件の後始末を心配している・・・。
生きる気力を失い命を絶ってしまった母親と対照的に、彼女が汗水たらして実らせた稲穂が豊かに揺れている様が印象的だった。
この作品は今井正監督初のカラー映画。『紙の月』でお金持ちのボケ老人を演じた中原ひとみさんのお声は今も当時も変わらなかった。