2014年04月10日

これを観ないで2014年邦画ベストテンは語れない 4月19日公開 『そこのみにて光り輝く』

『そこのみにて光輝く』呉美保監督/120分/4月19日よりテアトル新宿、名古屋伏見ミリオン他にて全国ロードショー公開/http://hikarikagayaku.jp/

砕石場で事故を起こして若者を死なせてしまった達夫(綾野剛)は、自責の念にとらわれて仕事を辞め、函館のアパートで鬱々と暮していた。今日も生々しい事故の夢でうなされて目が覚めた。

そんな彼が出かけたパチンコ屋で、妙に馴れ馴れしくひょうきんな茶髪青年・拓児(菅田将暉)と出会う。なんの因果か「うちに来いよ、飯でも食わせっからよ」の言葉にふらふらとついていく達夫。

粗末な家に案内されて驚くが、拓児の姉の千夏(池脇千鶴)の作ったチャーハンに男二人は「うまい!」と言って頬張る。そこには、寝たきりの父親と世話する母親(伊佐山ひろ子)がいた。

会った瞬間から千夏に不思議な安らぎを感じた達夫だが、彼女は生活のために、昼はイカの加工工場で働き、夜は飲み屋で働き、売春をしていることを知る。

函館に行きたい!函館の海が見たい!

『海炭市叙景』の原作者・佐藤泰志は41歳で自ら命を絶った作家。この作品は三島由紀夫賞候補になった小説をもとに、原作者の生地である函館を舞台に、生きる目的を見失った男と、すべてを諦めきった女との出会いを強烈に描き出している。

ここに出てくる人で悪人は1人もいない。ささくれた自分を「癒してほしい」という願望が、たまたま暴力や口汚い言葉で呼応する。一見、殺伐とした人間関係だが、それを全部見守っているのが函館の海だ。

海のさざなみが、窓の外や歩いている道に映るが、それが画面のほんの隅っこでも生き生きと波立っていた。
そのさざなみが「ここまでは来れないだろう」とあざ笑い「来ては駄目だ」と死を否定しているように感じた。

今、引っ張りだこの人気者・綾野剛すら  からは遠い存在だ。
池脇千鶴、菅田将暉、高橋和也、火野正平、伊佐山ひろ子たちのこの作品に対する愛情が、演技以上のものを体現していたと感じた。

これを観ずして2014年のベストテンは語れないと思う。



posted by ミッキー at 11:51| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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