2024年01月03日

2023年 アジア映画ベストテン

1位

🎬『不思議の国の数学者』パク・ドンフン監督/韓国/117分

学問と思想の自由を求めて脱北した天才数学者ハクソン(チェ・ミンシク)は自分の正体を隠して、名門私立高校の夜間警備員として働いていた。無愛想な彼は学生たちから避けられていた。

ある日、ひょんなことから、母子家庭特別枠で入学したジウ(キム・ドンフィ)の数学を教えることになった。

正解を導くだけに一生懸命になる進学熱に疑問を抱いていたジウに、問題を解く過程の大切さを教えてくれるハクソン。そんな彼に過去をあらわになる出来事が起こって……。

『オールド・ボーイ』のチェ・ミンシクが主演。脱北した天才数学者と退学寸前の男子高校生の交流を描いた人間ドラマ。

チェ・ミンシクさんはいつも怖い顔の暗い役が多い。でも今作はいちごミルク好きの偏屈な数学者。日頃は警備員さん。先が読めてしまうのでストーリーには新鮮味はないが、チェ・ミンシクさんの教える「数学を解く道のり」に人生の苦難が詰まっているように感じた。

★チェ・ミンシクに主演男優賞
★キム・ドンフィンに新人男優賞


2位

🎬『セールス・ガールの考現学』センゲドルジ・ジャンチブドルジ監督/モンゴル/123分

理系女子のサロール(バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル)は、バナナの皮で転んだ顔見知りのクラスメイトに頼まれて、1ヶ月の間、アダルトグッズの店でアルバイトをすることになった。

学校が終わってから夜まで店でバイトしてから、一人で優雅に暮らすロシア語を話すモンゴル人のオーナー・カティア(エンフトール・オィドブジャムツ)の住むマンションに売上金を毎回持参するまでが仕事だった。

気難しいカティアに気に入られたサロールは、彼女と話すうちに「親の期待に逆らえず自分を抑えている」ことに気づく。

化粧もせず、おしゃれにも関心のないサロール。こんな子がアダルトショップで働けるかと心配になる。お店には冷やかし半分の客が来たり、これどうやって使うの とか聞かれても、サロールが表情もなくボーッとしているので客もつまらないみたいだ。

買う人はササっと会計して出ていくので、案外、うってつけのアルバイトかもしれない(でも配達先きで襲われそうになった時は驚いたが)。

いろんなことを経験したり、カティアとお付き合いしたりする中で徐々に表情が明るくなって、おしゃべりもおしゃれもそして性のことも無理なく描かれていた。

★監督賞
★バヤルツェツェグ・バヤルジャルガルに主演女優賞


3位

🎬『宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきました』パク・ギュテ監督、脚本/韓国/113分

韓国軍の兵士チョヌ(コ・ギョンピョ)は偶然に宝くじを手に入れた。何気なく当選番号を発表するテレビ番組で、自分の持っている宝くじが1等六億円とわかる。もちろん気が狂ったと思われるほど喜ぶが、誰にも言わず過ごしていた。だが、その後、宝くじは風に乗って軍事境界線を越えて、北朝鮮の上級兵士ヨンホ(イ・イギョン)のもとへ飛んでいってしまう。

南北の兵士たちは宝くじの所有をめぐって、共同警備区域のJSAで会うことにしたが……。



文句なしの面白さで会場から笑いも度々起こっていた。両方とも一人では抱えきれないことで、一人、二人と人数が増えていくが、それでいい考えも出てくる。そんなこんなの出来事は是非お正月に見ていただきたい。

とにかく南北の生活、考えの違いが浮き彫りにされて、興味深い韓国映画に仕上がっている。

★紅一点の女性兵士を演じたクァク・ドンヨンに助演女優賞
★俳優の松尾スズキに字幕監修賞 



🎬『極限境界線 救出までの18日間』イム・スルレ監督/韓国/109分

2007年。アフガニスタンの砂漠で韓国人23名がタリバンに拉致される事件が起きた。タリバンは24時間以内に韓国軍の撤退と収監中の仲間23名の釈放を要求した。

韓国政府は交渉役としてエリート外交官チョン・ジェホ(ファン・ジョンミン)を派遣した。アフガニスタン外務省に釈放を要請するが断られてしまう。一方、情報通の現地工作員パク・デシク(ヒョンビン)がアフガニスタンのフィクサーと交渉するが決裂。

チョンとパクは人質を救うため、不本意ながら手を組むことになって……。

外交官チョンをファン・ジョンミン、工作員パクをヒョンビンの初共演。実在の事件をもとに描いたサスペンスドラマで監督は韓国の代表する女性監督。ミッキー地元の「あいち国際女性映画祭」でも『私たちの生涯最高の瞬間』『飛べ、ペンギン』などお馴染みの方。

エリート外交官と自由に韓国語、英語、アラビア語をたくみに使う工作員パクとは最初こそ反目しあっていたが、それでは問題解決の糸口が見つからないことに気付き、次第に協力するようになる。

現地と本国との状況判断の温度差、どう説明してもわかってもらえないイライラがこちらにも伝わってくる展開で、息つく暇もなかった。

★女性監督賞
★メイキャップ賞(ファン・ジョンミンがだんだん日焼けしていくメイキャップがよかった)



🎬『スイッチ 人生最高の贈り物』マ・デユン監督/韓国/112分

映画出演の依頼が絶えない大人気のトップスターパク・ガン(クォン・サンウ)は、若手女優との一夜限りの情事を楽しむ華やかな独身生活を送っていた。

クリスマスイブの夜、彼は一人自宅に帰るためにタクシーに乗ったが、なぜか翌朝起きてみると、マネージャーで気を許せる友でもあるチョ・ユン(オ・ジョンセ)と人生が入れ替わっていて……。

面白くて気楽に楽しめる韓国映画って久しぶりな感じ。ちょっと中年太り気味のクォン・サンウもなかなか魅力的だし、マネージャー役の方も愛嬌があってよかった。

大スターと夢破れてマネージャーになった男が入れ替わって、一人の俳優さんが二役やるが、それがとってもうまかった。

★デート映画賞

🎬『草原に抱かれて』チャオ・スーシュエ監督/中国/96分

モンゴルの都会で馬頭琴を現代風にアレンジして演奏するミュージシャンのアルスは、兄一家と暮らす老齢の母から携帯に連絡があったので、折り返しかけて見ると、かけたことも、次男のアルスの名前も覚えていない。気になって兄一家の住む地に車で向かう。

そこには檻のようになった部屋に母はぼんやり座っていた。時には脱出してしまう認知症の母を兄夫婦がやむなく檻に入れているが「家に帰りたい、帰りたい」と言う母。アルスは兄が止めるのも聞かず、5年前まで住んでいた草原の家に母を連れて行った。

人の手を借りて一応住めるようにするが、母はすぐどこかに行くので長い綱を母につけてアルスと離れないようにした。家に帰って来たのに、また「家に帰りたい」といい募るのだった。

中国の作品。きっとモンゴルの平原で撮影されたのだろう。大画面から溢れるばかりの大平原の天候の移り変わりの中で人間の営みが手探りで描かれていた。惚けた母の求める「家」はどこか……そこにはどんな思い出があったのか幻想的な音楽と共に探っていくロードムービーの末に見る母の笑顔に感動した。

★撮影賞
★歌曲賞



🎬『ハント』イ・ジョンジェ監督、脚本/韓国/125分

1980年代の韓国。安全企画部(旧KCIA)の海外班長パク(イ・ジョンジュ)と国内班長キム(チョン・ウソン)は、機密情報が「北」に漏れたことから、組織内にスパイがいることを告げられる。組織内の人間全員が容疑者という中で、パクとキムはそれぞれ部下とともに捜査を開始する。

スパイを見つけなければ自分たちが疑われるという状況下で、スパイを見つけ出すことができないパクとキムは互いの行動を監視するようになる。そんな中、大統領暗殺計画が発覚。緊張は頂点に達する。

Netflix配信「イカゲーム」の主人公をやったイ・ジョンジェの監督デビュー作。20年来の友人のチョン・ウソンとともにダブル主演も務めたスパイアクション。

1980年代は韓国・北朝鮮でいろんな出来事があった。それを知ってると知らないでは理解度は違ってくる。ミッキーもその理解度に自信はないが、二人のお顔、アクションシーンに釘付け。

★アクション賞

🎬『毒舌弁護人〜正義への戦い〜』ジャック・ン監督、脚本/香港/133分

50代の治安判事ラム・リョンソイ(ダヨ・ウォン)は、新任の上司の気分を害したことで、失職してしまう。警察で働くのに嫌気をさしていたところに、友人の勧めもあって法廷弁護士として復活したラム。

そこで初めて担当した事件は児童虐待事件で、簡単な事件と思われたがラムと仕事上のパートナーの若い女性弁護士は予想に反して大きな権力闘争にに巻き込まれて……。

権力や金に固執する人たちの駆け引きの闇部分を主演のダヨ・ウォンが自身の「毒」を努力で封じ込めて、事件を解決していく。

50代とは思えない身体の動き、お声。お顔もすましていると美男。まだまだ青年弁護士で通じる。元々は喜劇俳優さんとか、いっぺんでファンになった。

事件自体も不思議感満載で途中まで一緒に探っている気分にさせてくれて、久しぶりの面白い香港映画で満足した。監督さんは脚本家出身でこれが第1作目。これからも面白い香港映画をたくさん作っていただきたい。

★新人監督賞
★脚本賞



🎬『あしたの少女』チョン・ジュリ監督、脚本/韓国/138分


就職希望の高校生3年生のソヒ(キム・シウン) は、担任教師から大手通信会社の子会社であるコールセンターを薦められてインターンとして働き始める。しかし会社は従業員同士に競争させたり、約束の成果給も3ヶ月後とかインターンにはないなどと言ったりして払ってくれない。

そんなある日、ソヒは親切に指導してくれた正社員で若い男性が自殺したことにショックを受け、精神が不安定になる。やがて、ソヒは真冬の池で凍死体となって発見される。

捜査を担当した刑事ユジン(ペ・ドゥナ)はソヒを死に追いやった会社を細かく調べ、隠された会社、高校の「闇の習慣」の真実に迫っていくと……。


『私の少女』のチョン・ジュリ監督とペ・ドゥナ(この作品では警察官)が再タッグ。

2017年に韓国で起こった実在の事件を基に、ごく普通の高校生少女が過酷な労働環境に疲れ果て自死へと追い込まれていく姿を描いた社会派ドラマ。


🎬『オマージュ』シン・スウォン監督、脚本、プロデューサー/韓国/108分

女性監督のジワン(イ・ジョンウン)は夫と大学生の息子の三人暮らし。自作の映画の評判も良くなく行き詰まっていた。そんな時に古い映画の修復の仕事が舞い込んできた。お金にも困っていたので即座に引き受けた。

それは1960年代の女性監督ホン・ウノンの作品『女判事』で35mmフィルムで撮られたものだったが、一部音声が消えていたり、検問でシーンが欠落していたものだった。ジワンはその欠落した部分をいろんな手をつくして繋げていく。

監督さんの個性がピカッと光る作品だった。

映画作りも母親としても中途半端で、息子からも「母さんの映画つまんない」と言われてしまうジワンが、韓国初の女性判事が毒殺された実話を映画化した『女判事』の修復作業にかかわることになる。

検閲でカットされたシーンがあることに気づいて、そのフィルムを探す旅に出たジワンは、今よりずっと女性映画監督が製作困難だった話や廃館になった古い映画館を訪れるというストーリー。

女性監督を演じたイ・ジョンウン、『女判事』を撮ったホン・ウノン監督、そしてこの映画を撮ったシン・スウォンの「女性監督三人力」に身体が熱くなった。

★女性3人よれば文殊の知恵賞



posted by ミッキー at 14:38| Comment(0) | ベストテン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする