元旦は東中野の娘と大須の『路地裏のマタハリ』さんに遅いランチを食べに行ってから、センチュリーシネマで『欲望の翼』を観に行った。最近になってレスリー・チャンのファンになった娘もたっての希望で行った。
随分前に観た作品だったが、思い出すシーンが多く、改めて味わい深い作品と感じた。娘はレスリー・チャンの横顔がステキだった…‥と帰り道に何回も言っていた。
洋画
1位
🎬『生きる LIVING』オリバー・ハーマナス監督/イギリス/103分
1953年、第2次世界大戦後のロンドン。仕事一筋に生きてきた公務員ウィリアムズは、自分の人生を空虚で無意味なものと感じていた。
そんなある日、彼はガンに冒されていることがわかり、医師から余命半年と宣告される。手遅れになる前に充実した人生を手に入れたいと考えたウィリアムズは、仕事を放棄し、海辺のリゾート地で酒を飲んで馬鹿騒ぎするも満たされない。ロンドンへ戻った彼はかつての部下マーガレットと偶然に再会し、バイタリティに溢れる彼女と過ごす中で、自分も新しい一歩を踏み出すことを決意するが……。
黒澤明監督の名作映画「生きる」を、ノーベル賞作家カズオ・イシグロの脚本によりイギリスでリメイクしたヒューマンドラマ。主演はビル・ナイ。マーガレット(日本版では小田切みき)を演じるエイミー・ルー・ウッドが秀逸!
★ビル・ナイに主演男優賞
★エイミー・ルー・ウッドに助演女優賞
2位
🎬『6月0日 アイヒマンが処刑された日』ジェイク・パルトロウ監督、脚本/イスラエル、アメリカ/105分
1961年。ナチス・ドイツの戦争犯罪人であるアドルフ・アイヒマンに死刑の判決が下された。リビアから一家でイスラエルに移民してきた少年ダヴィッド(ノアム・オヴァディア)は、授業中に、ラジオから流れるそのニュースに聞き入る先生や同級生たちを、不思議そうにただ見つめているだけだった。
放課後、ダヴィッドは父に連れられて中規模の鉄工所に連れて行かれた。ゼブコ社長(ツァヒ・グラッド)が狭い煙突型の炉の掃除ができる少年を探していたのだ。貧しい父のために熱心に働くダヴィッドだったが、社長室にあった金の懐中時計を盗んでしまう。それは社長がイスラエル独立闘争で手に入れた大切な戦利品だった。
そんなダヴィッドだったが機転がきき、すばしっこいので社長に気に入ってもらい、学校より鉄工所に入り浸るようになった。
鉄工所には、左腕に囚人番号の刺青が残る板金工のヤネク(アミ・スモラチク)、技術者のエズラ、鶏型のキャンディがトレードマークのココリコたちが、ダヴィドをかわいがってくれた。
そんな時、ゼブコの戦友で刑務官のハイム(ヨアブ・レビ)が、極秘のプロジェクトを持ち込んできた。アウシュビッツで使われたトプフ商会の小型焼却炉。燃やすのはアイヒマン。工員たちに動揺が広がって……。
過去に『オペレーション・フィナーレ』『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』があったが、視点を変えて描かれていた。
題名の6月0日とは 5月31日の真夜中で、6月1日になろうとする その瞬間に処刑されたこと。
★作品賞
3位
🎬『キリング・オブ・ケネス・チェンバレン』デビッド・ミデル監督、脚本/アメリカ/83分
2011年11月19日、早朝のニューヨークの下町。心臓疾患と双極性障害を患うケネス・チェンバレン(フランキー・フェイソン)は、寝ている時に医療用の通報装置を誤作動させてしまった。
医療センターから機器を通じて、異常がないから確認してきたが、起きたばかりの頭で的確な返答ができなかったので、センターが警察に連絡。すぐに安否確認にやって来た地元の3人の警官に、ケネスはドア越しに通報は間違いだと伝えるが信じてもらえなかった。
最初は普通に対応していた警官たちは、確認するためにドアを開けるのを絶対いやだと言い張るケネスに不信感を募らせて、次第に威圧的な態度や差別用語を口走っていく。
無実の老黒人が白人警官に殺害されるまでの90分間を、リアルタイムで描かれている。もちろん実話。
なかなかドアを開けて確認させないのを「悪事をやってる」「他に誰かいる」などと思い込んだ警官が執拗に鉄の玄関ドアを叩きまくる。男の元には家族から電話も入っていて近くに住む姪がアパートまでくるが、どんなに説明してもドアのそばにも来させない警官たち。
事件後、有罪判決にはならなかったらしいが、それなら今でもニューヨーク州の警官をしているのか。
★脚本賞
🎬『対峙』フラン・クランツ監督、脚本/アメリカ/111分
アメリカのとある高校で生徒による銃乱射事件が発生し、多数の同級生が亡くなり、実行犯の少年も校内で自ら命を絶つ。
6年後、事件で息子を殺されたペリー夫妻(ジェイソン・アイザックス、マーサ・プリンプトン)はいまだにその死を受け入れられず、事件の背景に何があったのか知りたいという思いを募らせていた。そんな時、二人はセラピストの勧めで、事件を起こした加害者の両親(リード・バーニ アン・ダウド)と対面することになって……。
最初の話し合いの部屋をセッティングしている人が落ち着かない様子だった。あまりこのシーンは必要でないと思ったが後からとてもいい始まりだったと感じた。
加害者、被害者も気持ち、6年の月日でどんな生活があったのか、どんな思いで過ごしてきたのか、そんなことが対話の中で浮かんできた。一言ひと言を「相手を傷つけないように、労わるように」発していくが、燻っていた怒りが時々抑えきれなくなる瞬間もあった。
6年の月日は当事者以外は「忘れてしまう」頃、だがこの2組のご夫婦は、夫婦という形態が変わっても、生活が変わっても、ずっと6年、同じ繰り返しの日々だったろう。夫婦のあり方を問うているような面が強く感じられた。
俳優である監督さんが脚本も手がけているが、初監督作品の見事な会話劇に脱帽した。4人の俳優さんも見事だった。
★新人監督賞
🎬『ソフト/クワイエット』ベス・デ・アラウージョ監督、脚本/アメリカ/92分
郊外の幼稚園に勤めるエミリー(ステファニー・エステス)は「アーリア人団結をめざす娘たち」という白人至上主義グループを結成。教会の談話室で開かれた初会合には、多文化主義や多様性を重んじる風潮に不満を感じている6人の女性が集まった。
日頃の怒りや鬱憤をそれぞれ経験談を語り盛りあがった彼女たちだったが、教会の牧師に「そんな話題なら即、出て行ってほしい」と言われ、急遽、2次会をエミリーの家にした。
その途中に立ち寄った食料品店でアジア系の姉妹と口論になってしまう。腹を立てたエミリーたちは、悪戯半分で姉妹の家を荒らしに行くが……。
マイノリティへの偏見を持つ白人女性たちがあるトラブルをきっかけに取り返しのつかない事態になって行く、「全編ワンショット&リアルタイム進行」と描いている。
この6人は中流以下の貧しい白人たち。方やアジア系の姉妹が住んでいるところは一軒家で高級とまではいかないが彼女たちよりうんといい家で、ピアノや電気製品が揃っている。
「パスポートを無くせば、あいつらは困るから、それを探せ」とばかりに、家中をぐちゃぐちゃに……、アホな女たちだ。1人ひとりならできないが団結すると歯止めが効かない。それからの顛末は書かないでおこう。
🎬『それでも私は生きていく』ミア・ハンセン=ラブ監督、脚本/ フランス、イギリス、ドイツ/112分
シングルマザーのサンドラ(レア・セドゥ)は、同時通訳の仕事をしながら8歳の娘とパリの小さなアパートで暮らしている。サンドラの実父ゲオルグ(パスカル・グレゴリー)はかつては哲学教師として生徒たちから尊敬されていたが、現在は病によって視力を失い、記憶も失いつつあった。
サンドラは母フランソワーズ(ニコール・ガルシア)と協力して父の介護をしていたが、父の変化を目前にして無力感にさいなまれていた。
仕事と子育てと介護に追われ、自分のことは後回しにしてきた彼女だったが、旧友クレマン(メルビル・プポー)と再会し恋に落ちるが……。
『未来よ こんにちは』や『ベルイマン島にて』のミア・ハンセン=ラブ監督が、父の病への悲しみと新たな恋への喜びという相反する感情に直面したシングルマザーの心の動きを、自身の経験を基に描いた
レア・セドゥの腰からお尻、太もものたっぷりした身体の線が目に焼き付いて離れない。服を来ている時はそう感じなかったが、子どもを一人か二人産んだような色気のある線だった。
ボケが進んだ父親は母親とは離婚している。父親には愛人がいて、愛人が世話しにくると、娘が行って世話するときには見せない嬉しがりようで落ち込んだり、クレマンが妻と自分の間を行ったり来たりする苛立ちを「自分の中でおさめよう」「大人の判断をしよう」と気持ちを沈めている様子を見事に演じていた。
レア・セドゥに主演女優賞
🎬『エリザベート 1878』マリー・クロイツァー監督、脚本/オーストリア、ルクセンブルク、ドイツ、フランス/114分
16歳でオーストリア皇妃となりヨーロッパ宮廷一の美貌と言われていたエリザベート(ビッキー・クリープス)は、1877年のクリスマス・イヴで40歳の誕生日を迎えた。
ヨーロッパ宮廷の美しい皇妃のイメージを保つために身体をコルセットでキツく締めたり、体重を気にかけたりして民衆の目を気にしていた。形式的な公務にますます嫌気を覚えていた。
そんな気持ちを紛らわすように、イングランドやバイエルンを旅し、かつての恋人や古い友人を訪ねていく中で、誇張された自身のイメージに反抗し、誇りを取り戻すために、ある計画を思いつく……。
皇妃エリザベートのことはいろいろいろな説があって興味深々だった。この作品では大胆な行動の女性としての部分と、若さ、美貌の衰えを我が身に感じて不安になる両面が、女優ビッキー・クリープスが見事に演じていた。最後の決断は意外なもので打ちのめされたが、あのシーンは忘れられない映像だった。
★時代検証(室内装飾、小物等々)賞
🎬『ロスト・キング 500年越しの運命』スティーブン・フリアーズ監督/イギリス/108分
フィリッパ・ラングレー(サリー・ホーキンス)は職場で上司から不平等な評価を受けるが、別居中の夫(スティーブ・クーガン」からは、生活費のため仕事を続けるように言われてしまう。
そんなある日、息子の付き添いでシェイクスピア劇「リチャード三世」を観た彼女は、悪名高きリチャード3世も実際は自分と同じように、不当に扱われてきたのではないか……と疑問を抱き始めた。
それがきっかけになって歴史本を何冊も買ったり、リチャード3世同好会に入ったりずんずんとのめり込んで行った。
1485年に死亡したリチャード3世の遺骨は近くの川に投げ込まれたと長らく考えられてきたが、フィリッパは彼の汚名をそそぐべく遺骨探しを開始するが……。
500年にわたり行方不明だった英国王リチャード3世の遺骨発見した女性の実話を基にしたヒューマンドラマ。
これが実話とは、3回ほどいただいた資料を確かめた。それもそう遠い昔の話ではない。約10年前だ。英国王リチャード3世のことはなんの知識もないので調べてみた。遺骨発見のニュースと共にたくさんのことがネットに載っていた。発見時のニュースも知らなかった。
3度の食事を2度にしても観ていただきたい作品だ。
★編集賞
🎬『ポトフ 美食家と料理人』トラン・アン・ユン監督、脚本/フランス/136分
19世紀末、フランスの片田舎。「食」を芸術の極みにまで高めた美食家ドダン(ブノワ・マジメル)と、彼が考えたメニューを完璧に再現することが出来る料理人ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)は20年以上もお互いに愛し合いながらも食のパートナーとして過ごしていた。料理人として自立すると共に自由を好むウージェニーは、ドダンの求婚を断り続けていた。
2人が生み出した料理は、上流階級の人々を驚かせ、その噂はヨーロッパ各国にまで広がっていく。
そんなある日、ユーラシア皇太子から晩餐会に招待されたドダンは、豪華なだけで論理もテーマもない大量の料理にうんざりする。
彼は最もシンプルな料理「ポトフ」で皇太子を招待したいとウージェニーに打ち明けるが、突然ウージェニーが倒れてしまう。ドダンはすべて自分の手で作った料理で、彼女を元気にしようとするが……。
『青いパパイヤの香り』『シクロ』 『夏至』 『ノルウェイの森』 のトラン・アン・ユン監督による新作。第76回カンヌ国際映画祭 最優秀監督賞受賞作。
井戸で水を汲み上げていた時代に、使った鍋や食器などの洗い物など、後片付けの様子が知りたかった。
★監督賞
🎬『ヨーロッパ新世紀』クリスティアン・ムンジウ監督、脚本/ルーマニア、フランス、ベルギー/127分
出稼ぎ先のドイツで暴力事件を起こして、連絡もしないで突然故郷のトランシルバニアの村に帰って来たマティアス(マリン・グリゴーレ)。しかし妻・アナ(マクリーナ・バルラデアヌ)は嬉しい顔はしない。関係は冷えきっているようだ。
森で何かひどく驚くものを見たせいで口がきけなくなった小学生の息子や、病身の父との関係も上手くいかない彼は、元恋人シーラ(ユディット・スターテ)とよりを戻し、心の安らぎを求めるマティアスだった。
シーラが責任者として務める地元の食品工場が、人手不足から外国人労働者を雇ったことがきっかけで、よそ者を排除する村人たちとの間に不穏な空気が流れてきて……。
『4ヶ月、3週と2日』『汚れなき祈り』の監督さん。トランシルバニアでも人手不足で困っているのに働き手はドイツに出稼ぎに行ってるという。賃金が安いのか、ろくな仕事がないのかわからないが『アジア人がこねたパンなど食べたくない」と言って不買い運動までしている。
寂しい深い森を8歳ほどの男の子一人で登校させてたなど日本では考えられない。でも映画としては人間の善悪両面が正直に出ていて、さすがのムンジウ監督作品。
トランシルバニアはラテン語で「森の彼方にある国」という意味で、この映画にも深い森(通学路にもなっている)が出てくる。
★口が聞けなくなった男の子(どこにも名前が出ていない)に子役賞
★母親ユディット・スターテに助演女優賞