パリの中心地・セーヌの川っぺりに横付けされて浮かぶ木造建築の船「アダマン号」は、精神疾患のある人々を迎え入れている。芸術文化活動を通じて彼らの支えとなる時間と空間を提供していて、社会とのつながりが持てるようサポートしている。

フランスを代表するドキュメンタリー監督ニコラ・フィリベール。『僕の好きな先生』以来ずっと『パリ・ルーヴル美術館の秘密』『音のない世界で』『動物、動物たち』を観ている。
いつも感じることは優しいカメラの視線だ。今作もひとり一人の来船者を根気よく捉えている。
まず最初の歯抜けの男性が歌う「人間爆弾」の詩と歌のうまさに驚いた。「何があっても自分を手放してはいけない!」とダミ声で全身から振り絞って歌っていた。
ここに出てくる鼻歌のようにちょっとだけ歌う歌も、二本指でピアノを弾いて歌う歌も、ギターも全て驚くほど上手く芸術性があった。絵も単純な線、色づかいも見事な作品だった。
もう20年以上前に観たオーストリア・ウイーン郊外にある「芸術家の家」で暮らす心の病を持つ10人の絵描きたちのドキュメンタリーを思い出した。五十嵐久美子監督、編集の『遠足/"Der Ausflug"』だ。ここに出てくる人は寡黙な人が多かったが、アダマン号にくる方は前向きにお話しや創作をしている人が多かった。
このドキュメンタリーでは嵐や大雨の日がなかったが、そんな時の彼らの表情とか様子も知りたかった。