2021年11月03日
第34回東京国際映画祭(4)『川っぺりムコリッタ』『よだかの片想い』
🎬『川っぺりムコリッタ』荻上直子監督、脚本、原作/120分/Nippon Cinema Now
のどかで懐かしい風景に魅了された。川のそばにある築50年の長屋風のアパートが舞台。前庭もあって住民が花や野菜を作っている。なぜかヤギさんが番犬がわりにつながれている。時々かわいいかすれ声でなくのがいい感じだ。
そんな情景の中、住む人は時代の流れに取り残された人々。
山田(松山ケンイチ)は刑務所帰りで勤めはイカ調理工場、雇い主の紹介でこのアパートに入る。
隣の野菜作りが上手いがとても図々しい男・島田(ムロツヨシ)は、山田が引っ越してきたその日に風呂につからせてくれと部屋に入り込んでくるが、驚いた山田はドアを閉めてしまう。
大家のシングルマザー(満島ひかり)は期日に家賃を納めにくる山田に感動してお菓子を一つくれた。そして、もう一家族は墓石セールスマンの父(吉岡秀隆)と父親について回る幼い息子……。
目の前を流れる川のように順々と留まることなく生ける人生を夢見ながらも、古アパートに暮らす人たちを追っている。
★2022年初頭に公開予定。
🎬『よだかの片想い』安川有果監督/98分/アジアの未来
とある大学の理系大学院に籍をおく前田アイコ(松井玲奈)は上品な顔立ちの美人だが左頬にアザがあった。幼い時からアザの形が琵琶湖に似ているとからかわれたり小さい子からは怖がれたりして恋や対人関係に背を向けて、研究一筋の生活をしていた。
そんな彼女は「顔にアザや怪我のあとがある人」のルポルタージュ本の取材を受けたのがきっかけで、若手映画監督・飛坂逢太(中島歩)が映画化したいと人づてに申し込んできた。気は進まなかったが一度だけ話を聞こうと会ったところ、人柄にも前作の映画もひかれて映画化を承諾したが……。
もちろん、すべての監督さんがそうだとは思わないが、こんなこと「ありそうな」ストーリー。
女は顔が命、そこにアザがあるのは致命的と思いがちだが、仕事に打ち込むアイコを好ましく思っている研究室仲間の車間距離、いや、人間距離がとてもしなやかに描かれていて、女性監督の優しさが表れているように思えた。