昨日、バスでホイッツという映画館に行った。商業施設で大きなスーパーが二つも入っている。映画館は娘がインターネット予約してくれたのでiPad画面を見せるだけでスイスイと入れた。観たのは日本公開が初夏の『葉問4 完結篇(英題:IP MAN4 )』で、最終章だ。今までの人生で重要な映像が出てきて楽しませてくれるが、もうこれで終わりなんだな……思わせる終わり方だった。2020年のアジア部門ベストテンには確実に入る作品だ。
[アジア映画]
1位『迫り来る嵐』ドン・ユエ監督・脚本/中国
1997年、中国。とある町の国営製鋼所で保安部の警備員をしているユィ・グオウェイ(ドアン・イーホン)は、近隣で多発している若い女性の連続殺人事件の捜査に刑事気取りで捜査をする。彼の馴染みの娼婦・イェンズ(ジャン・イーェン)が犠牲者たちに似ていると直感したユィの行動によって、事件は思わぬ方向に進んでいく。
工場の公安が仕事の彼は、刑事本来の張り込みや聞き込みという基本中の基本を忠実にやっていく。その迫力に満ちた行動は殺人事件を追うことで現実から逃避したいという願望が見え隠れしていた。印象に残ったのは空模様。雨がずっと降っているかどんよりとした曇り空で陰鬱な雰囲気を表していた。最後は彼の「人生の空虚さ」をうかがわせる終わり方だった。★ ドアン・イーホンに主演男優賞★撮影賞 ★第30回 東京国際映画祭で「最優秀男優賞」と「芸術貢献賞」をダブル受賞した中国の本格的サスペンス。
2位『パラサイト 半地下の家族』ポン・ジュノ監督/韓国
父親は事業に手を出してはことごとく失敗している甲斐性なし。母親(チャン・ヘジン)は元ハンマー投げ選手。長男(チェ・ウシク)大学試験におち続けていて若さと受験ノウハウをもて余している。長女(パク・ソダム)美大を目指しているが予備校にも通うお金がない。日々の生活は半地下の部屋に暮らしていて窓からは道行く人の下半身だけ見えている。生活費は家族全員でしがない内職をしている。
世界的に有名なポン・ジュノ監督、人気の高いソン・ガンホさんが主演だからコンビとして文句なし! このコンビで『殺人の追憶』は最も有名な作品。新作の出来も文句なし!オチにも満足した。機内✈️映画、シドニーの映画館も上映中。★監督賞★脚本賞
3位『熱帯魚』チェン・ユーシュン監督/台湾
台北。統一入学試験を間近に控えた中学生ツーチャン(リン・ジャーホン)は夢見がちな少年。深夜ラジオに投稿したり、いつもバス停で会う女の子(ファン・シャオファン)にラヴレターを書いてみたりして、空想して幸せな日々を送っていた。そんなある日、ゲームセンターで親友のウェイリー(リャン・ティンユァン)と煙草を吸っていたところを、刑事(チェン・ムーイー)に見つかりあやしげな訊問を受ける。その時はいくつか質問されただけで見逃してくれたが、翌日テレビニュースでその男が連れ歩いていた少年タウナン(シー・チンルン)が誘拐されたと報じていた。それから間もなく、ツーチャンはその男の手下を見つけて、そのトラックの荷台に乗り込む。
元刑事が金に困って金持ちの子を誘拐しようと企むが一向に親元に電話が通じないという犯罪喜劇。最後のオチも、最後のシーンで熱帯魚が「空中を回遊する」映像も郷愁があって、切なさの中に温かい気持ちになれた。
(以下順位なし)
🎬『ヒンディー・ミディアム』ケサート・チョードリー監督/インド
インドのデリーに暮らすラージ(イルファーン・カーン)とミータ(サバー・カマル)は、結婚式用の衣料品店で成功した夫婦。夫婦ともに学歴がなく、学歴は社会的地位を向上させ運命をも変えると信じている。一人娘のピアによりよい人生を歩んでほしいので、富裕層向けの有名校に進学させることを決意。夫婦はお受験クラスで面接のノウハウや試験のコツを学んだり、高級住宅地へ引っ越したりまでして、必死に受験したが、結果は全滅。しかし名門でも「貧しい家庭枠」があると知って……。
面白い❗️今の日本も学歴主義や教育パパママがいらっしゃるが、インドのこの映画を観たらきっとびっくりするだろうなぁ。
🎬『22年目の記憶』イ・ヘジュン監督/韓国
1972年、韓国と北朝鮮との間で南北共同声明が発表され統一ムードが高まる。初の南北首脳会談に向けて韓国では北朝鮮の最高指導者・金日成の代役オーディションが秘密裏に行われた。いろんな関門を通過して合格したのは、売れない役者のソングン(ソル・ギョング)は、完璧な金日成になるという役柄を与えられ必死の努力をする。だが役にのめり込むあまりに、幼い息子テシクからも「パパじゃないみたい」と言われるほどになって……。
政治絡み、家庭事情が半々のちょうど良さも、一人息子との関係、本人の精神状態も抜かりなく観せてくれた。終盤に行けば行くほど「なりきりようが尋常でなくなる」展開に鳥肌が立った。★ゾワゾワ鳥肌ムービー賞
🎬『誰がための日々』ウォン・ジョン監督/香港
寝たきりの母親を介護していたトン(ショーン・ユー)は、婚約者から「あなた一人では無理、施設に入れたらどう?」と言われたが、1人で頑張った。父ホイ(エリック・ツァン)は毎月お金は送ってくるが家のは寄り付かないし、弟はアメリカに行ったきりで帰ってこない。そんなある日、介護中の事故で母親を死なせてしまって……。
辛い現実が突きつけられた。香港じゃなくても日本でも起きていそうな話だ。ショーン・ユーやエリック・ツァンの生活に疲れきった姿や表情を、時として切なすぎて正視できなかった。トンのやったことは無罪となったが「薬は絶対にのむこと」を条件に父親のボロアパートに住むことになった。そこは一部屋で二段ベッド、台所、棚、テーブル、テレビ、冷蔵庫があるだけ。ほったらかしにしていた父親が一生懸命、息子をかばう姿に涙が流れた。香港の街もたくさん出てきたようだが、そこまで気持ちの余裕がなくて一間だけの部屋から抜け出られないような気分になった。★ エリック・ツァンさんに助演男優賞
🎬『ホテル・ムンバイ』アンソニー・マラス監督/オーストラリア、アメリカ、インド
2008年にインド・ムンバイの歴史ある「タージマハル・パレス・ホテル」でイスラム武装勢力による同時多発テロが勃発。 テロの始まりはムンバイの駅で100人以上の乗客、駅員を無差別に射殺。逃げ惑う人々はタージマハル・ホテルなら安全と逃げ込んだ中にテロリストが混じっていたことから、ホテル内部での3日間がはじまる。
もうハラハラドキドキを通り越して試写室から逃げ出したくなった。主演は『スラムドッグ$ミリオネア』のデブ・パテル。宿泊客を無事に逃がすために、ホテルマンたちの誇りをかけて、特殊部隊の到着までの過酷な数日間を描いている。少年たちを洗脳してテロを実行させた首謀者がまだ捕まっていないとエンドロールに出て、しばらく立ち上がることが出来なかった。★作品賞
🎬『帰れない二人』ジャ・ジャンクー監督/中国、フランス
中国山西省の中規模都市・大同(ダートン)で暮らすチャオ(チャオ・タオ)はヤクザな男ビン(リャオ・ファン)と恋仲だった。時は2001年。中国は北京オリンピックの開催決定で活気づいていた。二人はヤクザ親分の元で地上げを手伝うなどして裕福に暮らし、彼らなりに生き甲斐を感じていた。そんなある日、ビンに怨みを抱いたチンピラに殺されかけたが、チャオが発砲。おかげでビンの命は救ったが、その罪で5年間刑務所に入った。
観終わった時、とても複雑な心境になった。男の行動も気持ちの動きも、女の男の心移りを知りながら突き詰めていく行動もわかる。でも「わかる」けど「共感」できないのだ。そういう映画に限って後をひいて頭から離れない。それは山西省、山峡ダム、ウィグル自治区と広がる風景と西城秀樹がカバーしていた懐かしい歌「YMCA」やダンス曲「チャチャチャ」が目や耳に残っているからかもしれない。★チャオ・タオさんに主演女優賞★音楽賞
🎬『芳華 youth』フォン・シャオガン監督/中国
1976年、17歳でダンスの才能が認められた少女ホー・シャオピン(ミャオ・ミャオ)を連れて文芸工作団(=文工団)に戻ってくる若い男性リュ・フォン(ホアン・シュエン)シャオピンの実父は労働改造所(反革命犯に対して労働を通じて改造を強制する所)いて、彼女にとって文工団は新しく人生の始まりの場所だった。
1970年代の国の政策下で訓練された「文工団」の様子、そこでのプラトニックな男女の出会い、その方たちの現代の様子も描かれていた。オーケストラあり、歌あり、ダンスありの素晴らしいもので、厳しい練習の様子も映し出されていた。「文工団」は歌舞や演劇等々を通じて国家の宣伝を行う部隊。軍人の身分が与えられている。そして兵士たちを鼓舞するために戦地に赴くのだ。
★監督さんは『唐山大地震』の方。主演のホアン・シュエンさんは『ブラインド・マッサージ』や染谷将太と共演した『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』の人気俳優さん。
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🎬『ガリーボーイ』ゾーヤー・アクタル監督、脚本、製作/インド
舞台はインド・ムンバイのダラヴィ地区にある広大なスラム街。そこに住むイスラム教徒の少年ムラド(ランヴィール・シン)は、雇われ運転手の父(ヴィジャイ・ラーズ)と母(アムリター・スバーシュ)と弟、祖母と共に狭い家で暮らしていた。 両親はこんな生活から抜け出すためにムラドを大学に通わせている。だが父が第二夫人をむかえたことで家庭に波風がたつ。
インドで活躍する実在のラッパー、Naezyの半生を基にしたサクセス・ストーリー。主演のランヴィール・シンさんは、インド映画界の人気スター。ラップもすべてご本人が熱唱している。ムンバイのスラム街だがムラドの家はそう悪くはない。だって第二夫人をめとるぐらいだから。だが外はすさまじく貧しく荒れていて、言い方は悪いが街全体が「生ゴミの捨て場」といっても過言ではない。インド社会の不平等があらゆる立場から描かれている。